Ping×Pong×Dash! 3 「あれ?そうか、今日は越前が当番なんだな」 カウンターで顔を合わせ、一瞬驚いた大石はすぐに理由を思い当たり、普段の穏やかな顔で笑いかけた。 昼休みの図書室は短い時間の割に人が多く、特に何かの授業で課題でも出れば貸し出しカウンターは混雑する。そんな合間を縫って現れたのは人当たりのいい副部長だった。 「ども、ッス」 流れ作業の途切れたところだったのでおざなりな挨拶となってしまったが大石は気にせず、大変だなと労ってくれる。貸し出し手続きをしながらたわいのない会話をしていると、思い出したように笑いかけてきた。 「そういえば最近、手塚とよく話すようになったんだな」 よりによって一番乗りたくない話題でくるか。 脱力しそうになるのをなんとか堪えて、いきなり何スか、と問い返す。 「いや、大した事じゃないんだ。ただ、やっぱり手塚って誤解されやすい性格だからさ、先輩や後輩、同年代でも色々あるんだよ。それが越前はそういうのがあんまりないみたいで安心して……」 わたわたと言葉を並べ立て、遮る隙を与えず言い募ると、そのことにまた謝り出したのち、一息ついて最後に加えた。 「とにかく、手塚は不器用だけどいいヤツだから」 こちらの反応も待たずに頷いたと思ったら、時間取ってごめん、そう言い残して爽やかに大石は去って行った。 投げっ放しってこういうのを言うんじゃないの?そんな反論を思いついたのは、カウンターでの応対を二人ほど済ませた後の話。 「あ、今日は越前なんだ。これ、貸し出しよろしく」 柔和な微笑で本を差し出したのは青学の天才だった。 「どーも、イラッシャイマセ」 「どういたしまして。お金は払えないけどね」 軽口を叩きながらにこにこと本を受け取り、小脇に抱える。 そのまま立ち去るかと思えば、こちらを眺めやり一言。 「ちょっと、疲れてる?」 「いきなりッスね、不二先輩」 思わぬ切り込みに呆気に取られる。不二はじ、と見つめ小首を傾げると、困ったように微笑んだ。 「不器用さ、まで受け継がなくていいから」 ね?もう一度首を傾げて念を押すと、ひらひら手を振って歩き出す。 カード片手に数秒固まったリョーマは理解することを放棄した。 流されたら負けた。妙な反骨心を胸に、カウンターの椅子に座りなおす。 今度は復活するまで三人かかった。 「やあ、越前。問題は解決したかな」 「余計にややこしくなりマシタ」 「それは大変だ」 なんなんだこの遭遇率。 本日三回目の邂逅に、そろそろリョーマもうんざりしていた。しかもここにきて乾とはついていない。別に打ち明けたことを後悔してはいないが、今このタイミングで聞かれるのは精神的にくるものがある。 「つーか今日は晴れのち青学レギュラーッスか」 半分ヤケになって茶化してみれば、相手は面白げに口角を上げた。 「何、そんなに来てるのかい。今日は」 「大石先輩と不二先輩、そんで今」 「成る程」 投げやりに答え、カードを処理している間、乾は軽く頷いて、またもやノートを開いて書き込み出した。 何がどう楽しいのかはたまた役に立つのかはさっぱり分からない上に割とどうでもいいが、少々鬱陶しい。リョーマの心情を知ってか知らずか、静かにノートを閉じたのち、意味深にふむ、と眼鏡を抑えた。 「それなら大トリは手塚だな」 「はい?」 発言の意味が読めない。怪訝なリョーマに薄く笑いを浮かべ、これからの展開を乾はかいつまんで説明した。 「手塚とはさっきまで一緒だったんだ。でも学年主任に捕まってね、おそらくあと十分ほどで来ると思うよ」 「げ」 正直な反応に、くっく、と笑いを堪えながら先輩は続ける。 「そんなに嫌がってやるものじゃないよ。あれでも頼もしき部長なんだから」 「乾先輩、フォローになってない」 それから退室するまで、乾の肩は小刻みに震えていた。 笑い上戸め、そう思ったのも無理はない。 時計を見上げ、思案する。 あと十分で、来るかもしれない。 残り時間が少ないとはいえ、顔を合わす気にならないのも本音だった。カウンターに積まれた返却済みの本の数。リョーマは隣の当番の生徒に声をかけると、本を抱えて棚の整理へと向かう。 滅多に重ならない先輩来訪のオンパレードが、なんだか仕組まれた事のように思えてくる。しかも揃いも揃って的確に突かなくてもいいところを突いてきた。 いいヤツだから?言われなくても! 悪いだの嫌いだの思っちゃいない、ただ超えるべき目標として見定めているだけ、そういうこと。 不器用を受け継ぐ?何の心配だ。 あそこまで修正不可能な人間にはなりません、なれません。意思疎通とかコミュニケーションとか辞書でいっぺん引いてみたらいいんじゃないの。 あれも人間だ?嫌がってやるものじゃない? 違うと言われても信じられる、おかしいだろ色々と!なんでどうしてこっちが妥協するんだ、向こうが歩み寄れ、説明しろ、納得いくように説明しやがれ! 沸騰しそうな感情を押さえ込み、チャイムが鳴るのをひたすら待った、ただただ待った。 とにかく、今は会いたくない。 |