エンカウントも実力のうち! 9 下手に電話をかけても意味がない、もう一組と同じ結論に達した跡部と越前は、けっして和やかとは言えない雰囲気で並んでいた。跡部にしてみれば、うすうす理由も感づいてはいたが、わざわざほじくり返すのも面倒で無言のまま数分が過ぎた。 「そろそろかけてみるか」 「好きにしたら」 素っ気無い態度を鼻で笑い、挑発するように告げる。 「お前、言いたいことあんなら今のうちだぜ?」 「ないよ、そんなの」 切り捨てる声は、かたい。 「あのな…」 「アンタに言ってもしょうがないことばっかりだっつーの」 低い感情の篭った声に遮られる。少しばつの悪そうな顔をした越前は、ぼそりと台詞を付け加えた。 「きっかけにすぎないじゃん、アンタは」 視線を一瞬寄越し、見せた表情は何かを堪えるもの。 即座に理解した。 「怪我か」 手塚国光について回る不安のひとつ、それは解消されたと言い切れるものではなかった。 実際、その後の試合でまたことごとく周囲をひやひやとさせているのを跡部も己の目で見てきたのだから。 そして、その怪我を最初に浮き彫りにしたのは言うまでもなく、跡部と手塚の頂上決戦だった。 「別に、それは部長の自業自得でしょ。それで九州とか、ほんと何やってんだか」 恨みだと解釈した跡部を否定するように越前は速やかに言葉を切り込んできた。 疑問符を浮かべる跡部に対し、関を切ったように越前が零し続ける。 「普通、入学したての一年に全てをかけてくる?おかしいよあの人」 青学の柱になれと手塚は言った。それを受ける本人の葛藤なんてお構いなしに。 ただ期待を一心に受けて越前は勝ち進んだ、負けなかった。 目標を手に入れたからには負けるわけにはいかなかったからだ。 「ワケわかんないこと押し付けてくるし、俺に勝っといて負けるし、復活したらなんかとんでもないし」 目まぐるしい日々だった、全てを理解する前に物事が進んでいった。自業自得だと本気で思ったし、心配なんてしていなかった。 どうせ何事もなく復活してくるに決まっていると思っていたのだ。 そう信じている、願っている気持ちこそ目をそらせない部分であったというのに。 「行ったりしなきゃ、気付かなかったよ。色々と」 不在の部長に捧げる結束、そうとしか言えないあの勝利。 「おかげさまで立海にも勝ちましたー。それが奇跡ってやつ?もしそうなら――発生源なんて、言うまでもないでしょ」 投げやりに最後まで言い放ち、ぶんぶん拳を振り回す。 「あー、無駄な話しちゃったよ。疲れた」 いつもの無気力に近い声に戻り、うだうだと頬杖をつく。 跡部は口を開きかけたが、本人の中で完結してる感情にコメントをつけても仕方ない気がしてやめておいた。結局は越前の八つ当たり以外のなんでもないが、手塚が入れ込む理由も少し分かったかもしれない、ことにしておいた。 ふと携帯を確認してメール着信に気付く。 振動設定をメールだけ切っていたのを今更思い出すが、越前に煩く言われるのも鬱陶しいので黙っておいた。 「ねぇ、電話貸して」 いつ近くまで来たのか、越前が手を差し出してきた。 「俺がかけたら繋がるから」 「何だその自信は」 いいから早く、そう言って奪い取る形となった越前は着信履歴から手塚を選んで手早くコールした。 話し中ではないコール音が一回、二回、三回……… 「もしもし」 耳に届く声に笑みが浮かぶ。 「部長?」 「越前か?」 疑問をもたずに即答する相手にますます笑いが零れる。 「そう、手間が省けたでしょ」 「お前が携帯を持っていればもっと省けたがな」 「はいはい、それより不二先輩は?」 「一緒だ。さっさと合流するぞ」 「さっすが部長、部員捕まえるの上手いね」 「何がさすがなんだ……」 軽口の応酬も程々に、集合場所を決めて通話を終える。 「ほら、繋がった」 自慢げに微笑み、携帯を投げて寄越してくるのを跡部もニヤリと笑って受け取った。 |