エンカウントも実力のうち! 10


「越前、携帯電話は携帯する為にあるんだ」
「それ、今日二回目」

ほどなく、無事に合流できた第一声が説教だったのは当然の結果である。

「時間を取らせたな、すまなかった」
「ううん、なんだか結構楽しかったよ」
「コラ、さっさと行くぞ」

青学の柱コンビに手を振る不二に声をかけ、跡部がすたすたと歩いていく。
駆け足で追いついて、隣に並んだ。 沈黙のまま歩いてしばらく、静かな声が落ちる。

「反省したか」
「…した」
 
かすかに俯き、罪悪感を滲ませて答える不二に軽く舌打ちし、跡部は毒づいた。

「ったく、ひやひやさせんじゃねーよ」

別に怒っているわけではない、ただはぐれた時に連絡がつかないのはこんなにも疲れるものだと改めて思い知り、その相手が不二だったからこそ自分にとって騒動になった。諸々の連鎖が気恥ずかしいような気持ちにさせたが上の照れ隠しも含まれている。

「うん、ごめん」

跡部の気持ちを性格に汲み取ったかは分からないが、謝罪の言葉は暗くなく、ありがとうの意味も込められていた。 穏やかな空気が流れる、

「……あ」
 
かに思えた。 
 
「どうした」

ぴたり、立ち止まった不二を振り返り、跡部が尋ねる。
不二は鞄に手を入れたまま、ぎぎぎ、と錆びた人形のような動きで首を上げ、目を逸らす。

「…怒らない?」
「いいから言え」
 
有無を言わさぬ跡部の態度におそるおそる、不二は鞄からあるものを取り出した。 

「携帯、サイレントモードで鞄に入ってた」

多くの着信を示す待ち受け画面。

「てっめぇええええええええええええ!」
「ご、ごめん!ほんとにごめんってば!」

本日一番の怒声を上げた跡部がつかつかと不二に詰め寄った。激しく平謝りする不二の様子に大きく溜息をつき、髪をかき上げ更に息を吐く。

「もういい」
「え」

拳骨くらい軽く覚悟していた不二は振ってきた言葉に驚く。不機嫌な顔をした跡部が忌々しげに言う。

「これ以上くだらねぇ事で時間食ってられるか」
 
言うが早いか、不二の手首を掴み、歩き出す。状況を飲み込めず、引かれるままの不二に視線を送り、しっかりと告げる。

「行くぞ、今度はぐれたら承知しねぇからな」
「――うん」

歩幅を合わせ、今度こそ二人で歩いていく。

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