エンカウントも実力のうち! 8


「繋がらないな…」
 
通話ボタンを切り、手塚が息をついた。不二が心配そうに声をかける。

「越前、繋がらない?」
「それ以前に携帯を持っていない可能性があるな。あいつは基本的に携帯不携帯だからな」
「忘れた分際で言うのもなんだけど、意味、ないね…」

想定内だとでも言いたげな手塚の態度に乾いた笑いを禁じえない。
もしかしてこういう状況に慣れていたりするのだろうか。頼もしいような複雑な気持ちになった。
 
「この事態を予測して先に跡部にかけてみたんだが繋がらなくてな…念のため越前にかけて予想通りだったわけだ」
「あ、もしかして僕の携帯にかけてたかな?だったらすごくすれ違いかも」
「だとすると、しばらくはかけない方がいいな、いたちごっこになりかねん。メールを送っておく」

現状を示した簡素な文面を送り、携帯を閉じる。しばしの沈黙。
やがて、手塚がやや気まずそうに言葉を紡いだ。

「越前がすまないな」
「いや、いいよいいよ。僕も馬鹿だったし…!」

改めて謝られると自分のテンパり具合が思い出されて居た堪れない。
本当にどうしてあそこであんな行動を取ったのか意味不明なのだ。とんちんかんな振る舞いをしてしまったおかげで怪しさ大爆発だったことだろう。

「あいつは妙に聡いというか賢しいところがあってな…俺も大分振り回された覚えがあるがまさかこんな巻き込み方をするとは予想外だった……」

申し訳なさそうに難しい顔で語り続ける手塚。
額に手をあて唸る様子は上級生というよりは、まるで…

「手塚、越前の保護者みたい」
 
思わず口にしたら、とても憮然とした表情になった。 

「ごめんごめん、だってなんか、微笑ましくて」
 
くすくす笑いを零す不二を見て息をつき、手塚の眉間の皺がやわらいだ。

「お前が落ち着いたのなら、それでいい」

言葉少なに頷く相手に、どこまで保護者気質なのかと思いながら、温かい気持ちが胸に広がった。
自分は、本当にいい友達をもったものだ。  

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