エンカウントも実力のうち! 6


うっかり走り出してしまった不二は、スピードに乗りながら自分を責めまくっていた。
なにやってんの僕なにやってんの僕なにやってんの僕!
心で叫んでようやくストップ。
とにかく跡部に連絡しなくてはいけない、謝ってそれから…考える時間さえ惜しい、何よりも連絡を。
焦り、鞄を探すうち、薄ら寒い予感が背筋を走る。
これは、まさか、いや、でも。
 
「…あれ?」

響いた声は我ながら間抜けなもの。

「携帯、忘れたかも」

踏んだり蹴ったりとはまさにこれか。自業自得とはいえ、さすがにかなり辛いものがある。
とりあえず財布は持っていたことに安堵しつつ、どうしたものか溜息をつく。 さすがに携帯番号を覚えてはいないし、だからって帰ってしまうのも気が引ける。 ああでも最終もしかしたら家に電話してたりするかもしれないし、などとぐるぐる悩んで本当に頭を抱えたところ、思わぬ声がかかった。

「不二?どうしたんだ、具合でも悪いのか」

何故かそこには手塚がいた。

「手塚!なんで…」
「ああ、まあ話すと長くなるんだが――」

視線を微妙に彷徨わせ、こほんとひとつ咳払い。

「越前とはぐれた」
「なんでそうなるの!」

不二はさすがに力の限りツッコんだ。
二人と別れてから時間が経ったとはいえ、せいぜい十五分かそこらである。自分が携帯を探して右往左往している間にいったい何があったというのか。
 
「お互いに余所見をしたことが敗因だと俺は思う」
「君達さ、変なところばっかり似るのやめてくれないかな」

詳細を利く気が物凄く失せた。
休日の人通りを少し甘く見ていたようだ、だのもっともらしく語り出されても実態は「うっかりはぐれました」以外の何でもない。どうして普段はしっかりしているリーダーがこんな馬鹿なはぐれ方をするのだろうか。むしろ普段はちゃんとしている分、休日には気が抜けるとでも?いや、試合や遠征はそのことを考えているから大丈夫なのかもしれない。それによく考えたら別に手塚を完璧超人だなんて思っちゃいないのだから、なんてどんどん思考がズレていく。

ふと思う、手塚がそれほどリラックスしてしまう相手なのだろうか、越前は。

皆でぶらぶらと歩いて気になるものがあれば止まったりするのは部活メンバーでもよくあることで、手塚はそれを諌める役だった。手塚だってたまに自分の興味の惹かれるものに目を留めたりはしても、誰かを率いてる場合はけしてそのようなミスを犯しはしないのだ。
そんな手塚が、越前とはぐれた。
不二は何だか少し、笑ってしまった。

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