エンカウントも実力のうち! 5


ついていけないのは置いてけぼりの二名である。
不二はあまりの早すぎる流れに感心していいのやら呆れていいのやら。越前が凄いのか手塚が甘いのか悩みかけて、両方だと結論付けた。 青学にいると超展開には慣れてくる、先に納得してしまった者が賢いのだ。 跡部はというと、あからさまに納得のいかない気分の悪そうな顔をしていたが、越前の勝ち誇った態度のおかげで更に悪化した。

――なんだろう、この手塚の取り合い…

どんどんカオスになっていく状況に、不二は頭を抱えたくなった。
そんなタイミングで、越前が思い出したように、そういえば、と口を開く。

「不二先輩、待ち合わせしてるんじゃなかった?」
「あ」

すっかり忘れていた、訳ではないが一連の騒動で動くに動けなかったのが事実である。
それより何より、今の状況は不二にとってかなりありがたくない。

「跡部もそんなことを言っていたな」
「奇遇だね!跡部も?」

咄嗟に出た一言がそれだった。
しまった。思ったところで時既に遅し。
何言ってんだよ、と打ち消されるのさえ恐ろしく、踵を返しておざなりに挨拶をして走り出した。

「じゃ、待たせてるかもしれないから行くね!」
「おう、それじゃあな」

反射で答えたかのように見えた跡部の表情はどうだっただろうか、怖くて確認できない。
何かに突き動かされるみたいに、不二はただただ足を動かしていた。

ひとりが走り去り、もうひとりがゆっくり歩き去った後、残されたうちの年長がぽつりと呟いた。

「お前、あれは少し意地が悪いぞ」
「部長も続けたくせに」

悪いのは自分だと言いたげな様子にムッとして言い募ると、相手はしれり、言い放った。

「俺はいま気付いたんだ」
「おっそ…」

威張ることじゃない、全然威張れることじゃない。
駄目だこの人、なんて思っている間に、それはともかくお前の態度は問題だとか説教された。
悪いとは思わないこともないが、越前にもささやかな言い分がある。

「少しの独占欲くらい、大目にみてよ」
「不二が気の毒だろう」
「跡部さんいいんだ……」

僅か拗ねる素振りをすげなく返されたことよりも、脱力感の方が大きいのは何故だろうか。

――やっぱりこの人、駄目かもしれない。

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