エンカウントも実力のうち! 4


「コイツの頭が固くてな」
「こいつの話が荒唐無稽でな」

とりあえず往来から部長組を回収して近くのベンチに落ち着いた。
越前が真っ先に座り、不二が少し悩んでから腰掛けて、立ったままの手塚と跡部に説明を求める。
話をまとめると要するに練習試合だか合同合宿だかそういう話をしていたようだが、 質実剛健がモットーの手塚と使えるものはどこまでも使う跡部では突き詰めていけば話がぶつかり合うのは自明の理。
両者の言い分をまともに聞いていたらとても疲れる気がしたので、越前は華麗にスルーし、不二はやんわりと話の方向を変えた。

「それにしてもすごい偶然だね、手塚」
「ああ、そうだな。二人も買い物か?」

簡単に世間話にシフトしたあたり、手塚もさっさと話を終わらせたかったようだ。普段は空気をあまり読めないくせに、こういう部分だけは抜け目のない手塚に不二は内心で苦笑する。

「僕は越前を見かけたから話し込んでた」
「部長も捕まってたの?」

ひょいと越前が乱入する。捕まってたって――と笑う前に、跡部が不機嫌そうに噛み付いた。

「随分な言い草だな、あーん?」
「ただの揶揄表現でしょ、心狭いんじゃない?」

挑戦するように笑う後輩を微笑ましくみるべきか諌めるべきか、悩む問題でもないのだが正直どっちもどっちな感が否めないので笑ったまま見守った。しかしこの場には思ったことをその場で口にするのに躊躇がない人間がいた。

「越前は口喧嘩にだけ国語の成果を発揮するのはどうかと思うんだが」
「手塚…お前ちょっと黙ってろ」

勃発しかけた小競り合いは跡部が脱力したおかげでごく平和的に解決した、のかもしれない。
そんな跡部を無視して、越前がベンチから立ち上がり、手塚に視線を向ける。

「ねえ、部長。このあとヒマ?」

数秒の沈黙。

ひとりは固まり、ひとりは状況を理解するのに手間取り、尋ねられた本人は意味を噛み砕いてからゆっくり口を開く。

「越前、俺は参考書を買いに来たんだが」
「用事終わってるならいいよね、ヒマでしょ」

物凄い切込みである、相手の事情はお構いなしのようだ。          
言葉の出ない二名を置いて、部長とルーキーの会話は進行する。 

「使うために買ったんだが」
「アンタどんだけ勉強する気?たまには付き合ってよ」
 
繰り返し言い聞かせる台詞も吹き飛ばす主張はどこまでも強気。恐れを知らない越前に対し、手塚は息を吐いて言葉を続ける。

「大体ラケットも持っていないぞ」
「うちにくればいーじゃん、コートもあるし」
「お前な……」
 
色々な意味でそういう問題ではない。
いい加減にしないかとたしなめる決意を固めかけた時、まっすぐな瞳とかち合った。

「くるの?こないの?」

睨み据えてくるその光は強く、そして眩しい。

「――――試合はしないぞ」
「やった」

厳かな敗北宣言と軽いノリの勝利。
かくして、中学テニス界最高峰のひとりはあっさりと捕獲されるのであった。

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