エンカウントも実力のうち! 2


腕時計を確認して僅か眉をひそめる。中途半端な時間に到着してしまった。
時間前行動は常のこととは言え、プライベートで早すぎるとそれはそれで困る。
適当に暇を潰す為、手近な書店へと足を運んだ。洋書コーナーへ足早に進み、背表紙を流し見ていると視線が止まった。 本ではなく、ある存在に。

「よぉ、手塚じゃねーの」

今まさに一冊手に取ろうとしていた相手はわざわざ本を棚に戻してからこちらに向き直った。

「跡部か。偶然だな」
「それ、気にせず見ろよ」
「いや、今日買いに来たのはこっちだからな。予定外の出費はなるべく抑えたい」

そう言って持ち上げたのは参考書。予想通りというかなんというか、思わずツッコミが零れ出る。

「お前、どんな模範学生だ」
「勉強は学生の本分だろう」

さらり、答えてくる相手は至極真面目、本気で言っているのだから少々頭が痛い。
跡部とて学業を疎かにしたことは全くもってないが、手塚の場合は様になりすぎていて微妙な気持ちになるのだ。 聞いたところによると品行方正、清廉潔白、勤勉実直の三拍子を兼ね備えた教師が泣いて喜ぶ優等生だとか。それで全国模試一位で生徒会長とくれば、出来すぎだろうと言わざるを得ない。
自分自身の方がよほど斜め上に飛んだ境遇で同じくテニス部部長で生徒会長だという事実は跡部にはどうでもいいことだった。 こんな真面目一辺倒で面白味もないはずの男が、何よりも自分を奮い立たせ最高の試合を繰り広げた。テニスにおいては、否、テニスにだけこの男の熱さは発揮される。

――面白い。好敵手と見定めたからには、満足いくまで追い回してやる。

レジへ向かう間、跡部は胸中でニヤリと笑った。

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