エンカウントも実力のうち!


「うん、じゃあまた来月ね。ちゃんと帰っておいでよ」
「家出みたいに言うな」

半目で睨み返して来た弟は、呆れたように溜息をつくと軽く手を振って歩いていった。
ひらひらと振り返しながら見送って、少しの寂しさを感じつつ時計を見る。
色々あって溝をちょっとずつ埋めてからというもの、それまでほとんど帰ってこなかったのを散々家族に責められた弟は一、二ヶ月に一度、実家で夕食を共にすることを義務付けられた。ぼそぼそと文句を言いながらもなんだかんだ久々の家庭の味に喜んでいるのを家族全員が知っている。思わず浮かんでくる微笑ましさに頬を緩めながら、不二はぶらぶらと歩き出す。
今日の予定まではまだ時間がある、どこか店でも覗いてみようか。
ふと視界の端に見知った姿が映った気がした。くるり見渡すと、スポーツショップのウィンドウ越しに見える小柄な姿。帽子は被っていないが、それは部活の後輩に相違なかった。時計と相手を見比べて、不二はショップの入り口をくぐる。シンプルですっきりとした店内は居心地が良く、青学メンバーも利用することの多いこの店。制服やジャージ姿で立ち寄ることは多かったけれど、私服で来るとなんだか少しむず痒いのは何故だろう。
そわそわとする気持ちもそのままに、ラケットコーナーで立ち止まっている越前に声をかける。

「やぁ、越前。こんにちは」
「…どうも、コンニチハ、ッス」

かかった声にぴくりと反応し、振り向いた越前は途切れ途切れな挨拶を返す。

「あはは、なんかたどたどしいよ。驚いた?」
「割と」

会話が終了しそうな一刀両断っぷりではあるがそれがこの後輩の性格なので不二は特に気にしてはいない。くすくすと笑いながら話を続ければ少し拗ねたような態度を見せながらも言葉を返してくる。 ぽつぽつ交わした内容によると、どうやらガットを張り替えに来てラケットを預けた待ち時間の最中らしい。

「越前が帽子被ってないのは新鮮な気がするよ」
「先輩たちとは部活中が基本だしね」
「というか私服と帽子なしのコンボが珍しいのかな」

ああ、と同意を示したのち、越前がちらり視線を寄越す。首を傾げてみたところ、言葉を続けてきた。

「そういえば不二先輩は通りすがり?」

俺は聞かれたけど聞いてない、端的な言い草に不二は口元を押さえて笑った。

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