Hurry up! 5


当番というものは面倒だ。大体この学校はなんで委員会所属が義務なのか。 嫌々やるものの効率の悪さくらいこの歳でも分かる。 定例の委員会に加えて図書委員に課せられるのは貸し出し担当、 つまりは昼休みや放課後のカウンター係。 人が多くても鬱陶しいし、居ないなら居ないで暇で眠い。どうしろってんだ。
悪態を尽きながら半分まどろみかける放課後の図書室。 都大会中、なんて免罪符はローテーションの当番には通用しないらしい。 何故なら「その理屈でいくなら下手すると夏が終わるまで仕事をしないだろう」と 同じく運動部を掛け持ちしている委員長にすっぱり言ってのけられたからだ。
青学テニス部の実績と期待を喜べばいいのかなんなのか。

開放される受け持ち時間まで人気のないカウンターでぼんやりとしている意義も感じられず、 不快指数は最近の気分の悪さと合わせてうなぎのぼりに急上昇。 眠気は薄まったけど精神的には最悪だ。
ふいに扉を開く音が耳に入り、仕方がないので顔を上げる。 仕事がある方が少しは時間も早く感じるはず……

「げ」
「あからさまに嫌な顔をするな」

最悪気分に拍車をかける人物が現れた。運のない日ってのはとことん運がない。
和解できるはずもない状態のまま、今に至ってるわけで。
テニスは楽しいし、超えてやろうという気持ちは変わりないし、だからこそ試合も思い切りやっているとはいえ、 見かければやっぱり蹴りたくなるし何よりむかつくし癇に障るのだ。 相性が悪い、自分にそう言い聞かせて抑えている。 また淡々とそれでいて真剣に語りかけてこられたら今度は殴り飛ばす自信がある。

「アンタってなんでこんなにタイミング悪いの」

第一声で正直に出してしまった時点で取り繕う気にもなれなくて溜息も隠さずに言い放つ。
眉間の皺を深めた相手が間髪入れずに口を開く。

「俺が図書室を利用するのは当然の権利だろう」

ああ、そーですね。返事をするのもだるくなってカウンターをこんこんと叩く。
部長は本を手に持っているから返却ってこと。それならさくっと手続きを済ませてお引取り願おう。
俺の態度に不機嫌そうに片眉を上げながら無言で本を差し出した。
この人、こーゆーの無駄に分かりやすいな。カードを確かめてスタンプを押して本に戻す。はい完了。

「じゃ、これ戻しとくんで」

手続きの終了を告げると、ああ、と答えながらも動こうとしない。見てくる。
いや帰れって、終わったって。つーか部活行けって。

「早く部活行きなよ」

無理やり目を逸らして投げかける。向こうの視線はまだ固定されたまま。

「今日は部活に出られるか?」
「一応、途中参加ってことになってるけど」

なんで引き伸ばすんだよ、会話を。もういいから、ほんといいから。 居心地が悪いので本を戻すため席を立とうとした。付き合ってらんない。 でもそこで声に止められた、むしろ止まってしまった。

「今、思い出したんだが。というか常々言いたかったことなんだが、そして無駄かもしれないが」

前置きが長い。基本的に無口なくせに脈絡もなく喋りだすなよ!
苛立つ気持ちでちらりと見る、また生真面目な眼差しってやつ?勘弁してよね。

「あの態度はどうかと思うぞ」
「は?」

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