Hurry up! 4


最初もやっぱり衝動だった。

部室に入ってくる相手、挨拶をする自分。 ばらばらとコートに出て行く部員たちに遅れ、部長を通り過ぎようとした時、ふと見上げてしまう。 目が合った、耐えられない、無意識に動く足。気がつけば、見事に誰もいない部室、思い切り部長の足を踏みつけていた。

数日はなんともなかった、そう、あの試合から数日間。 次第にこみ上げてくる何か、不快感。
部長を見ればわいてくる、言いようのないその感情。 増えていくばかりのそれは発散する場所もなく渦巻いて、本人への嫌がらせとして表に出る。 一度やれば二度も三度も変わらない。 いつしか攻撃は日課となって、相手の隙を窺い仕掛けるように。 そんなテクニック磨いてどうするんだと思いもしたが、やめられるならやってない。 成功ばかりとは限らず、すまして避ける相手に更に加速する態度と行動。

きにいらないきにいらないきにいらない。 何もかもが気に入らないし、胸糞悪い。
子供じみた、くだらないくだらない反抗心。それだけが自分を突き動かし、また支配していた。

気づいたら家の前、足が止まることで我に返る。帰巣本能とかなんとか、人間ってのはよくできてるよ。
ハッ、と口から零れる嘲笑。何を考えて歩いてきた?
くやしいくやしいくやしいくやしい。頭に浮かぶのはそればかり。
結局あの後、部長が出て行くまで自分は一歩も動くことができなかった。
仕方ない?気に入ってる?期待?どこまで自分を見下ろせば気がすむのだあの男は。

あの一瞬、あの一瞬だけ包まれた柔らかな空気に眩暈がした。 微かに触れた手のひらが、体温が呼吸を止めるかと思った。 かけられた言葉に上手く表情を作れたか分からない。 だから?とはねつけるように続けるつもりが言葉が後に続かなかった。 まっすぐ見つめてくる部長の視線を受け止めて、逸らさないのが精一杯だった。 あんなのは反則だ。深く考えてなどいないくせに。

高みから高みから。いつもいつもいつも、届かないところに彼はいる。

なのに、彼は、放っておいてなどくれはしない。

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