触れて結ぶはかけがえのない  2


人の目があるところでは牽制に牽制を重ねてくる花京院ではあるが、部屋に落ち着くと途端にガードが緩くなる。 それどころか、自ら寄って来ては何かにつけ手を繋ぎたがった。
本日も指の間までしっかり組ませて隣におさまってしまったので承太郎としては微妙に抱き寄せにくい。 不満の意を込め肩から凭れると頬へ優しく唇が当たった。

「じゃあ、向き合って繋ごう」
「そこじゃねえ」

悪気なく放たれる改善案により、結局片手を絡ませたままキスしてじゃれる運びとなる。

「そんなに好きか」

承太郎も悪い気はしないが、やたらと繰り返せば気にもなった。
鼻先の触れ合う距離できょとり、聞かれたことを不思議に思う表情の花京院。

「部屋だから出来るんだよ」
「おれはかまわねーぜ」
「ぼくは構う。さすがに」

軽く答える承太郎へ若干嗜める響きがぴしゃり。続いた呟きは悩む音程。

「まだ何かと面倒な年齢なんだ、君もぼくも。横槍を入れられたらたまらない。 君と二人で通う道がぼくにとってどれほど尊いか知らないだろう」

こんこんと説明する声に熱が入り、叱られているような構図になった。
理解が追いつかず聞き流しかけ、慌てて脳内へ文章を留める。
承太郎の混乱も露知らず、花京院が考え込む仕草で自らの顎に指を添えた。

「だがまあ独占欲も顕示欲も人並みにあることは認めよう。自分で責任を取れるようになったら手を繋いで歩いてもいいかもしれないな」
「そりゃプロポーズか」

勝手に完結した独り言、提示された未来へのツッコミで時が止まる。
ふはっ、と噴出したのは花京院だった。つくづく自由な男だと思う。

「君からその言葉が出るとは思わなかったぞ」

抑えきれない笑いが喉から零れ、小刻みに肩を震わせる。
何がそんなに面白いのか全く持って分からないが、しばらくして吹っ切ったように朗らかに笑う。

「そうだな、それもいい。十年後も二十年後もずっとずっと、君と歩きたい」

細められた穏やかな瞳を覗きこみ、繋いでない手のひらで頬を撫ぜた。

「ああ、おれもだ」

低い相槌に嬉しげに微笑む相手が擦り寄る動きは煽りでしかない。
朝からお預けを耐え抜いたのだから、そろそろ権利があるはずだ。

「限界だ。そろそろ喰わせろ」

組んだ手はそのままに体重を掛けて押し倒すと、背中を畳へつけた花京院が自由な腕を承太郎の首へ回す。 少しだけ照れた様子で長らく繋いだ指をそっと離していき、引き寄せるよう頭へ添える力が甘く誘う。

「君のそういうところ、好きだな」

落ちた呟きがあまりに幸せそうで、思わず見つめれば破顔した。

「ぼくを尊重してくれるってことさ」

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