陽射しのいい部屋 4



自分と世界には線があった。それは最初から引かれていたのかそれとも自ら引いたのか、とにかく、ずっとはっきりとわかたれていた。サッカーは楽しかった、サッカーだけが、心を煩わされることなくいられる時間だった。

「また別れたのか」
「私とサッカーとどっちが大事なのよ!だってさ」
「それはまた、」
「大人になっても仕事とどっちが、とか言われんのか。男って損だな」
「はは」

屋上で走り去る女子生徒、その少しあとに現れた級友はジュースのパックを差し出した。ありがたく受け取ってストローを刺し、喉に通る甘さを飲み込んで息を吐く。

「言い分が理解できない、つかする気もない」

フェンスに凭れ、呟く。友人は促すでもなく聞いている。

「なんで全部を望むんだろうな、こうやって言葉にすることだって100%伝えられないし、受けとる側も同じだ。それを何をもって全て寄越せだの言えたり思えんのかさっぱりわからない」

心からの疑問で主張だった。またストローをくわえるうち、言いよどんだ友人が決めたように口を動かす。

「お前の主張もわかる、あくまで俺の感覚のうちだけどな。でもそれでも、一般的、あるいは多数という言い方をするなら、その主張は」
「続きは聞いたよ、三国。ついさっきな」

自分と先刻の女子の声が重なる。

『南沢くん、冷たい』

飲み終わった紙パックをぐしゃりと潰した。気遣う表情も、いまは辛い。

「なんか、疲れた」

思えばそれは青臭さだったのかもしれない。友人と戯れてサッカーをするだけで良かった。 恋愛に興味がないとかそういうことじゃなく、理解しあえないことが耐えられなかった。 小さな波紋は幼い精神には消せない傷となり、不信感は根元から広がっていく。 成長し、いつまでも外界を拒否してばかりでもいられなかったので、適当に纏うことを覚えた。 なんとなく、の付き合いで笑って踏み込ませない。二度と深く傷つくことのないように。

「頭、いて…」


翌朝、治まらない痛みが延々と響くまま倉間と会った。
顔を見るなり、心配した様子で窺ってくる。

「南沢さん、顔色悪くないすか?」
「偏頭痛持ちなんだよ」

ストレスとかな、付け加えてから発言を悔やむ。
案の定、分かりやすく固まった倉間がぎゅっと拳を握る。

「俺のせい、ですか」

強張った表情に薄く微笑んだ。潮時だと感じる。

「倉間、もうやめよう」
「え、」
「俺はお前が可愛いけど、それは違うし。だいたい俺に何のメリットもないだろ?」

言外へ含ませた拒絶に倉間が俯く。目を見ないで済む安堵で言葉を続けた。

「お前はちょっと浮かれてるんだよ、見たことのない世界を見た気になって、勘違いしてる」

そう、いわば刷り込みってやつだ。
新しい出会いと発見、それが一つの要素に絡みすぎて、正常な判断ができていないだけ。
倉間の表情は見えない、泣かれるのは少し困るとぼんやり考えた。

「……けんなよ」

沈黙を縫い、落ちた音色は怒りに染まる。
顔を上げた、その瞳。ねめつける苛烈さは突き刺さり、寒さではなく背筋が震えた。

「ふざけんなよ!!俺の気持ちを、アンタが決めんのかよ!」

動けない俺から距離を取り、軽蔑したように叫ぶ。

「大人だからって!」
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