陽射しのいい部屋 3


「南沢さん、おはようございます」
「……朝早くからご苦労なことで」

ひょんなことから知り合った少年はなんと母校の後輩だった。しかも同じ部活とくれば、親近感がわくのもよくある話。このくらいなら微笑ましいエピソードで終了するが、そうは問屋が卸さなかった。何をどう間違ったか、その後輩は自分を謎の方向で慕ってきた。尊敬かと思いきや恋慕、そんな馬鹿な。頭を回るツッコミは意味を成さず、斬り捨てた告白にもめげずこうやって頻繁に通ってくる始末だ。

「お前ゲイなの」
「残念ながら普通ですね。アイドルはすきだし」
「巨乳派?」
「美乳派」

形ですよ、とあっさり答える男らしさを称えていいのかわからない。それよりも動揺もせずに質問を流されたのもダメージだった。

「よくよく考えたら好きになるのは俺の勝手ですし、言っちまったもんは仕方ねーから」

素晴らしい開き直りをかましてくれた少年は、当事者の困惑もお構いなしにそのままの日常を続行した。別に疎ましいわけじゃないし嫌いでもない、どちらかといえば好ましい部類に入る。だがしかし、それはあくまで親愛であって愛情という大きなカテゴリに属していても別物だ。第一、中学生。思春期まっさかりの恋愛なんて熱病みたいなものだ、すぐに冷めるだろう。そう思う自分を裏切るように懐いてくるのをどう処理していくかが目下の難問である。肌寒さを覚える朝の道、懲りない少年に視線を寄越す。

「お前さー、俺の何がいいの」
「そんなの、一杯ありますけど――」

これが少女だったなら、顔だの安定した職だの突付きようもあるが、男だとその手が通じない。数秒悩んだ倉間が軽く微笑む。

「アンタと話してると、世界が明るい」
「ふうん」

子供は大人に憧れる、自分の見えない世界を羨む。倉間の笑う顔は、無邪気な時代の象徴に思えた。
じくじくと、傷の痛む気配がする。

恒例の勉強タイム、用意した問題を予想以上の早さと正確さでクリアしてきた相手は昔の試合が見たいと言い出した。
どうやら、優勝した年代のレギュラーだとバレたらしい。当時、部員全員にダビングして配られた映像を戸棚から取り出す。もう、随分と見ていない。再生される画面の中、縦横無尽に走り回るメンバーに、否、自分に倉間は釘付けだった。真剣な表情、息を飲み、一進一退を見守る様子をどこか遠くを見るような気持ちで受け止める。終わったあとの相手はそれはもう高いテンションで、あそこのパスがシュートがと大興奮だ。ひとしきり騒いで落ち着いて、やけにしみじみと呟いた。

「やっぱ、南沢さんも中学生だったんすねー」
「当然だろ」

つい笑いが零れ、倉間が何気なさを装って更に言う。

「その時だったら俺と付き合いました?」
「無茶振り」
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