別離


終わったと思った、救えたと思った。
女王を守るのは少人数、かつての仲間に勝利したその場で降伏を命じたのはその女王だった。再会が現実に。あの夜から何度も何度も夢に見て、泣いていないか無事でいるか、その身を案じたたった一人の妹。今こそ抱きとめようと手を広げた、その時。

「王子!」

突き飛ばされて身体がよろける、自分が立っていた位置では――天馬へとナイフが深々と突き刺さっていた。

「天馬っ!」

抜かれた傷口から血が流れ落ちる。表情も変えずにナイフを振りかざしたエイナムへ倉間が走った。小太刀を軽く受け流しながら敵が動く。崩れる天馬を抱きとめた。

「エイナム、話が違うじゃないか!」

叱責の声は前方から、視線を戻すと水鳥が妹を抱き締めて…否、捕まえている。

「簡単なこと。負傷者がいれば追ってこれない」
「よく言うぜ」

表情も変えずに淡々と告げるのを、軽蔑したように睨む彼女。エイナムは何も言わずに掻き消えた。天馬を見て血相を変えた黄名子はもがくが、腕の中から抜けられない。押さえたまま、水鳥が三国へ視線を飛ばす。

「三国!天馬の傷を見てやれ、はやく!」

弾かれるように三国が顔を上げる。太陽が抱えた天馬の傷を見て眉をひそめた。

「伯母上、離して!天馬が!天馬があっ」
「きな、お前はあたしと帰るんだよ。…ソルファレナへね」
「伯母上?!」

太陽が声を上げる。黄名子は目を見開いて呆然と水鳥を見つめた。

「水鳥様!」
「来るな!」

叫びながら地面を蹴る倉間、しかし手をかざす水鳥から旋風が巻き起こる。紋章だった。魔法の風に阻まれて身動きが取れない。吹きすさぶ勢いに視界も怪しくなる中、黄名子が太陽へ手を伸ばす。

「きな!!」
「兄上っ!」

互いの手は空を掴む。一瞬だけ視線を伏せ、水鳥が笑った。

「いい兄貴だね、太陽。でも今は天馬の心配をしてやんな」

風が更に強くなる。高く掲げられた手の甲、紋章が大きく輝く。倉間が叫ぶ。

「姫様!」
「くらま!兄上、兄上ぇえええええええ!!!」
「きな、きなぁああっ!!」

悲痛な声が響き渡り、届かないままの腕を伸ばし続ける。
轟音の収まったその後には、水鳥も黄名子もいなかった。
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