決行


いよいよ妹を助け出す時がきた。
引き連れた精鋭は選りすぐり、申し分ないメンバーだった。

「では王子、隊を三つに分けようか」

頷いて、軍師の指示を待つ。アフロディは人差し指を立て、剣城の横に歩みを進める。

「まず、姫様の護衛をひきつける小隊。これは剣城に王子の影武者として頑張ってもらおう」
「それはいいが…王子をよく知らない民はともかく女王騎士には顔でバレるんじゃないのか」

変装をして整えたとしても、そもそもの顔立ちが違う。知っていれば到底誤魔化せるものではなかった。
すると、ウルビダが静かに前へ出る。

「私が幻覚でお前を王子に見せる、気にせずニセモノを務めればいい」
「…ニセモノ」

ぽつりと繰り返す単語は少々憮然として聞こえた。軍師がくすりと笑う。

「おやおや、二人とも仲良く頼むよ」

決まっていたらしい話に思わず瞬く。珍しい、彼女が率先して関わりをもつとは。

「ウルビダも参加してくれるの?」
「不本意だが黄昏の紋章のことを鑑みても私がいくしかないからな」

対抗できる黎明は王子が持つ、囮役という性質上外すことの出来ない適役である。

「次に、剣城たちが誘い出した護衛と姫様を分断する小隊だ」
「姫様の護衛には間違いなく女王騎士がいる、ここは俺だな。元女王騎士としては千宮路も捨て置けない」

南沢の志願もあっさり通り、着々と人数が揃っていく。

「そして姫様を救い出す小隊。これは問答無用で王子だね」
「もちろん!」
「俺も行きます!」

被さる速さで天馬も挙手。護衛を置いていきはしないので元から数に入っている。
すっ、と軽やかに伸ばされた腕は倉間。真剣な顔で太陽を見つめた。

「姫様を助けるのに俺を抜かすとか言いませんよね?王子」

これで三人、あとは誰にしようと悩みかけ、視線がふいに水鳥と絡んだ。
しばらく沈黙を守っていた彼女は静かに口を開く。

「あたしも、行くよ」


***


混乱する兵士の声が多数聞こえる。
剣城たちは上手くやったらしい。分断された隊は見事、目の前に現れた。
互いに姿を認め、白々しさしかない笑いが浮かぶ。

「どうも、久しぶり」
「これはこれは南沢殿、お久しぶりですね」

千宮路が丁寧に挨拶を返す。かつての同僚、だが昔からそりがあった覚えもなかった。
気に食わない相手が気に食わない敵に変化しただけのこと、そう表すには事態は大きくなりすぎた。

「しかし再会を喜んでいる場合ではないのです、女王騎士は陛下をお守りしなければ」
「聞こえないな」

うわべだけの言葉を切り捨てる。貼り付けた笑みは専売特許だが、この相手にはそれすらも惜しい。

「お前は女王陛下を守ってるんじゃない、自分たちを正当化するための言い訳を作ってるんだ」
「貴方が女王騎士を語ると?居ないと思えばいつの間にか裏切っていた、貴方が」
「ハッ、ほざけ。騙っているのはお前だろう」

小馬鹿にしたような口調に反吐が出る。鋭く見据え、油断なく体勢を整えた。

「俺はな、陛下も騎士長も王子も姫様も気に入ってたんだ。だから騎士になった、仕えると決めた。それを裏切り、あまつさえ女王騎士ヅラだと?ふざけるな」

言いざまに剣を抜く。向こうが動くのも待たず、素早く構えた。

「お前を絶対に許さない。落とし前、つけさせてもらう」
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