予兆


「来たね、王子」

軍議の間に顔を出すと、主なメンバーが勢揃いしていた。
アフロディは静かに歩み寄り、はっきりと告げる。

「落ち着いて聞いて欲しい。女王陛下の親征が発表された」
「女王、親征…」

口の中で反芻する、現実味のない言葉。
倉間が我先にと声を上げた。

「それって姫様が戦場に出るってことですか?!」
「アルファあたりに無理矢理やらされてんだろ、あんな小さな子を引っ張り出しやがって…!外道め」

吐き捨てる水鳥の声は怒りに満ちている。驚愕の声を上げた倉間は僅かな沈黙の後、真剣な顔で呟いた。

「いや、まさか姫様、自分で…」
「それって…」

どういうことかと太陽が問う前に答えは返る。難しい表情をしていた顔が輝く。

「だって、そうすれば姫様は王子の近くに来られる。たとえ戦場で敵味方になるとしても、千載一遇の大好機ですよ!」
「なるほど、それ頂こう」
「え」

両手拳を握り締めたまま力説するところでさらっと一言。勢いをくじかれ固まる妹姫の護衛を差し置いて、アフロディは美しく微笑む。

「姫様、さらってしまおうか」

正しく受け取るのに数秒の誤差、気付いたように太陽が大きな声を出す。

「そうか!向こうが女王国正規軍を名乗れるのはきながいるからだ…!僕らがきなを助けてしまえば…!」
「戦争は終わるな」

南沢が言葉を次ぐ。答えに満足したように頷いて、軍師の指が空気を爪弾いた。

「もしかしたら姫様もそこまで考えているのかもしれないね。王家の血を受け継ぐお方だ」
「王子に会いたいって勢いのがありそうですけど」

身も蓋もない発言をするほどに回復してきたのを笑って、倉間に頷く。傍らの天馬も笑顔一杯、居並ぶ面々を見渡し、太陽は効き手を強く握った。

「よし、やろう!きなを助けて!全てを終わらせよう!」

その場の全員が太陽の声に呼応する。ただ一人を覗いて。

「それで…本当にいいのか?きなを助けて、戦争を終わらせて、それで全てが解決するのかよ」

呟く水鳥の声は、誰の耳にも届かない。
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