unlockに理由はなくて 2 平和以外の表現が難しい同居生活。大学が同じとはいえ学科は別だ。生活リズムがずれることもままあった。 「あ、ちょっと出てきます」 「どこに」 そんな時、休みだったり合間だったり、被るはずの時間が取れないと不安定さが覗く。きちんと行き先を告げ、帰宅予定も伝えればいつもの調子でふわりと笑う。 「わかった。いってらっしゃい」 危なげなバランス、綱渡りのように日々は過ぎていった。一度も止められたことはないし、強制されることもなかったけれど、布に染み込む水滴の如く。静かに静かに侵食される感覚。分かっているのに、頷いた。 「明日は出掛ける?」 「予定はないです」 「じゃあ俺と行こう」 「どこに?」 「映画とか買い物、なんでも」 嬉しそうな顔を指でつつくと、手ごと掴まれて優しく唇が当たる。思わず人差し指で押せば咥えられて、舌が触れるのをぼんやり見つめた。 「南沢さん、口がいい」 感触に少し震え、顔を寄せていく。細まった瞳が甘えた視線で絡めとる。解放された手で肩を掴み、ねだるよう口を開いた。重なってすぐ触れる舌が熱い。吸い付いてこすって何度もなぶり、唾液を飲みながら唇へ噛みつく。上顎をなぞるくすぐったさにぞくぞくと縋り、腕を首へかけて凭れ込む。なんとか息を整えて胸におさまる。背中を撫ぜる手に大きく息を吐いた。 「くらま、かわいい」 「アンタそればっか」 「でも、かわい」 緩みっぱなしの表情がおかしく、自分の顔も言えたものじゃないと分かりながら軽口を。手の甲が頬をさするのに擦り寄って、はた、と思い出したことを言う。 「次の土曜は遅くなります」 「何時」 「多分十時、過ぎるかも…」 「迎えに行く」 即答も即答、頭へ移動した手が緩やかに髪を梳きながら言葉はよどみない。 「え、いいですよそんな」 「迎えに行く」 見つめる瞳はまっすぐなだけ、少しだけ沈黙して頷いた。途端、柔らかく微笑んで、額、鼻先と軽いリップ音。唇にも小さく、ちゅ、と触れ、物足りなげな表情につられて零す。 「…もっとしたい」 「俺も」 幸せそうなこの顔を、もっと見ていたいと思った。 |