組み立て意識の取り扱い 2 夕暮れの帰り道。子供のはしゃぐ声が風に乗る。 何気なく見回すと、サッカーボールを追いかける影がふたつみっつ。 口元が緩む。ふいに蹴る軌道がそれて、足元まで転がってきた。 「すみませーん!」 手を振る子供に頷いて、思い切り足を蹴り上げる。 ボールへ触れた、その瞬間。頭に浮かび上がる映像、笑い合う仲間たち。 自分の記憶にはない面々のはずだ、それなのに流れるイメージはあまりに自然で胸に残る。 まっすぐに飛んでいくボール、受け取って頭を下げた子供は走り去る。 蹴った感触、じわじわと、身体の中を駆け巡る高揚。知らず首筋を流れる、汗。 たまらずに走り出した。 靴を脱ぎ捨て玄関を通り抜け、自分の部屋へと駆け込んだ。次々に浮かんでくる映像群。 受け取りたくもないのに止まらない。 息が荒いのは走ってきたからだけじゃなかった。 ドアへ凭れて、ずり落ちる。 「な、んだ、これ」 頭を抱える。痛みが響いた。 その日から、ちょくちょく見た事もない風景が浮かぶようになる。 自分はサッカー部で、ユニフォームを着て、必死にボールを追いかけていた。 見たことない顔だと思っていたが、よくよく考えれば隣のクラスだったり、学校内の面子だ。 夢ならともかく意識にねじ込まれるようで忘れようにも消えてくれない。 「なんか、調子悪い?」 昼休み、中庭で弁当を広げる傍ら、南沢が目の前で手をひらつかせる。 毎日一緒という訳でもないが、隣にいる時間は割と多い。 思わず漏れた溜息を聞きとがめられ、少しだけ悩む。 しかし説明するにも訳が分からなさすぎるので、寝不足ということにして軽く誤魔化した。 「そういえば図書室の書架整理、手伝い募集してましたね」 「委員会でやるには広いからな、あそこ」 「やったらどうです?散々お世話になったでしょ」 「パス。いま何月だと思ってんだ、休日減らせるかよ」 「すげー言いたくない台詞なんすけど、俺は?」 「聞きたい?」 特に意味もなく振った話題の矛盾点、分かっていながら口を挟む。 笑いを浮かべ視線を流してくる、相手。 ――いち抜けた。 脳内に響き渡る発言。身体に震えが走った。 知っている音、知っているトーン、それは、紛れもなく目の前の人で。 箸を取り落とす。 「倉間?」 南沢の声が遠い。取り繕うことも出来ず呆然と手のひらを見る。 新しく入ってくる記憶のようなものは、傍らの相手がよく出てきた。 その後のことはよく覚えていない、返事のまばらな倉間を心配した南沢に保健室へ連行され、 荷物を取ってくるからと布団に押し込まれた。 奔流に似た大量の情報が身体を横たえた途端にこれでもかと主張しだす。 喜び、悲しみ、怒り、悔しさ、差し掛かる映像は負の感情が多く含まれている。 ――退部します。 ――俺たちからサッカーを奪うなよ! 自分の叫びに目を見開く。喉がカラカラに渇き、汗も酷い。 掠れる声で、呟いた。 「おもい、だした……」 |