専属の意味合いをひとつ 2 そうこうしているうち、約束の一時間が経過。 なんとか急ごしらえで形にしてみたアイドルたちは一部沈痛な面持ちで審判を待った。 「みんなお疲れ!」 『お疲れ様です!』 社長の声に揃って斉唱。うんうん、と頷く円堂に続き豪炎寺も室内へ進む。再度、挨拶が飛び二人が椅子へ座るのを待って風丸の合図で全員が腰を下ろす。簡易審査、といったていの緊張感にそれぞれの表情が真剣になる。 「そんなかたくなるなー、事務所内で緊張したらもたないぞー」 からから笑う社長の態度に皆の心がひとつになった。 ――緊張の意味が違う……! おそらく、その言葉を読み取った大人は風丸だけと思われる。 くじ引きで順番も決まり、いよいよ発表開始。一番の札を手に立ち上がったのは神童だ。 繊細な音楽を紡ぎ、誠実な態度。滅多に音楽番組へも出演しないレア加減はファンに惜しまれている。 これは最初からまともなコピーになるだろう、きっとほとんどのメンツがそう考えた。 息を吸い、口を開いて出た言葉は、 「こ、恋の指揮は拓人におまかせ!」 「やめてやれ!神童にはやめてやれ!!」 予想外を通り越して、勢いで喚く。どもってしまったのが本人の限界と見た。 吹き込んだのは誰かと考えて、一人しかいないと気付く。 「浜野てめぇ!見てるこっちが辛い!」 「てへぺろ」 騒ぐ倉間を叱りもせず、豪炎寺と何やら話し合っていた円堂が判決を言い渡す。 「よし!神童合格!」 「しかも受かったぞオイ!」 ツッコミを止められるわけがなかった。晴れて浜野のせいで神童の煽り文句が決定である。 それまで沈黙を守っていた南沢の呟きが響く。 「いや待て、恥じらいながら頑張って言う感じがウケるんじゃないか」 真顔すぎるボケに速水は耐え切れず声を張り上げた。 「ファンはそういう層ばっかりじゃありませんよ?!」 「なんで今日に限って霧野がいないんだ!」 倉間が助けを求めたい神童の親友様は、録音スタジオにてレコーディングの最中だからどうしようもない。 今更の後悔で頭を抱える恋の指揮者が座ったところで次の順番となった。 「波乗り気分で君とエンジョイ★」 「くっ…割とコンパクトにまとめてきやがって」 さんざん人を振り回して疲れさせた浜野のコピーは割合まともなのが腹立たしい。隣でぽつり、その相方が言う。 「でも旅行会社の案内とかそんな感じに思えますね…」 「お前たまに俺よりひどいよな」 速水の感想で倉間の頭は割と冷えた。 浜野も合格を勝ち取って、次々と審査は進んでいく。天馬、信助、そして剣城の番になる。所属事務所が別なのに巻き込まれてしまった哀れなアクションヒーローは、天馬とのユニットが決定して新しい。その練習でまさか羞恥プレイを強制されるなんて考えもしなかったことだろう。自らの尊敬する代表の前に立ち、正面を見据えた。 「斬り捨て御免!」 「何をだ」 豪炎寺のツッコミが入る。倉間も心の中で同文だった。むしろこの場の誰もがそう思った。 これは駄目だ、円堂ネーミング決定か、と思われたそこで何故か天馬が挙手。社長の許可を得て発言する。 「お前のために、みたいのをつけるとそれっぽいかも」 「よし、やってみろ剣城」 まさかのリテイク。しかも頷く円堂。 驚いた様子だった剣城だが、気を取り直してもう一度。 「お前のために全てを切り裂く!」 「何か違う」 二度目の指摘がやはり豪炎寺から刺さる。ぐ、と口元を引き結んだ剣城は今度こそ大きく叫んだ。 「お前のために悪を切り裂く!」 「つるぎかっこいい!」 天馬の声援の後に社長のOKコールが向けられた。力を抜く剣城と万歳三唱する天馬。 「なんだこれ……」 「倉間、ツッコミは損するだけだからやめとけ」 「疲れ果てる前に聞きたかったです」 遅すぎる南沢の言葉を受け、重く重く息を吐いた。 ようやく全員の発表が終わり、ギリギリラインで無難に済ませた倉間も胸を撫で下ろす。 結果は合格十割という好成績。心から勘弁して欲しいが自分で決めただけマシだと言い聞かせる時間の始まりだ。 一通り労った後、社長から容赦のないお言葉が飛ぶ。 「だけどみんな、まだまだだな!!」 凍りつく空気。これはあれか、全員却下というオチなのか。 いっそ震え上がるレベルの恐ろしさに反応も出来ない若手を置いて、笑いながら元凶が言った。 「大事な売り出し文句をそんなノリで決めるわけないだろー」 ワンモアフリーズ。停止の意味合いが変わった。 何やらつらつら喋ってくれているけれど、全く耳へ入ってこない。この先、臨機応変な対応が求められることがあるとかどうとか。 誰も復活出来ないまま、輝かんばかりの笑みで社長の追加攻撃。 「みんな全力で挑んできたので合格だ!」 衝撃のロスタイムはまともな思考を奪い、風丸のみが心配げに皆を見つめていた。 「ちなみに今回いないメンバーには違う課題を出すつもりだから教えても無駄だぞー」 にこやかなお疲れを言い残し、レッスン室を後にする円堂。 豪炎寺は剣城へ軽く頷き、風丸はゆっくり休めと本気の労いを置いて扉が閉まる。 静かになった部屋にて、それぞれの第一声がやりきれない叫びだったのは言うまでもない。 |