Heatbeet Emotion 4


「どうだ、仲良くやってるか?」
「どうだもなにも……」

元凶である円堂に笑顔で声を掛けられ、思わず言葉を濁した。
問題なんてない、あるはずがないのだが、素直に喜べないのはこの人に起因する。

「なんだなんだ、お前が組むなら南沢しかないだろ」
「すげーありがたいんですけど、ありがたいんですけどなんか釈然としません…」

本気で不思議そうに首を傾げる態度に頭痛を覚えた。

まだそれほど仕事もなかった頃、ちょくちょく声を掛けてくれるきさくな社長にそれはバレた。
レッスンの日に被せてチケットを取り、ダッシュで駅へ向かうのを見られていたらしい。
何をあんなに急いでいたのか、から始まり見に行く舞台も白状させられ、共通点を把握される。

「あれとこれとそれ、まだ出演数が少ないとはいえ、完全に追っかけだな」
「知ってます」

もはや開き直って答えるしかない倉間を円堂はじっと見つめた。

「自分でチケ取って?」
「先行予約で」
「言えよー!学生の小遣いには高いだろ!」
「え、え?」

かくして、勉強の一環の名の下に南沢の舞台視聴権を手に入れた。
思いきり頻繁にある訳ではないその機会を逃さず見ることが出来ているのは社長のおかげである。
一般人はなかなか目敏いもので、そこそこ役有りで出演し始めた倉間を関係者席から見つけ出す人も最近はいた。
自分が売れ出してもそういうことをするだろうと早々に理解した円堂の素晴らしい采配といえる。
頼もしいようで、痛いところを掴まれた。

「頼みますから、言わないでくださいよ。特に初期」
「もうファンなのわかってるだろ」

真剣な顔で詰め寄る倉間に円堂は笑って片手を振る。
斜めへ視線を落としぼそりと呟いた。

「裏付けを事細かに取られたくないんで」

社長が遠慮なく吹き出した。

今夜テレビ初披露、なんて煽られたファーストシングルはその後見事オリコン初登場1位を獲得。
どう考えても南沢の功績だった。音楽番組の収録は立て続けに入り、あちこちで自分たちの曲が流れる。
街を歩いて突然有線で聞こえるのは、自分の時もそうだったが今回は更に心臓に悪い。
出演を数回こなしていくうちに何故かトークがウケて、割と振られるようになってくる。
録画もあれば生もある収録の中、南沢のキラーパスが目立つ。

「最近っていえば、よく牛乳飲んでるよな」
「南沢さんがやたら渡してくるからですよね」
「先輩の心遣いだろ」
「いじめの間違いじゃないんですか」
「まだ成長期いけるって、諦めんな」
「優しさをありがとうございます」
「そりゃ倉間大事だし」
「へぇ」

格好つけて答える姿に冷めた声が漏れた。
会場が沸く、司会者が笑いを堪えているのが分かる。
丁度いいタイミングで曲の時間になった。

「おまえ、ああいうのはちゃんと乗れよ」
「いやですよ」

控え室でメイクを落としながら駄目出しを食らった。何かおかしい。
つまらない会話をするのもアピールが足りないかもしれないが、狙う方向性が明らかに違う。

「まあ、お前ツンデレだって視聴者もわかってるか」
「はい?!」

あっさり呟かれた単語の意味を聞き出してまたひと悶着起こす羽目になった。
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