▼反抗的



「なに、お前からとか珍しい」
「すみませんね、レアで」
「第一声から拗ねんなよ」

そっちこそ第一声からからかうような言い方をしないで欲しい。
ただの疑問を口にしただけかもしれないが、掛けてくるのは少ないくせに、と暗に言われている気がした。
笑って言う相手こそ実は拗ねている疑惑がある。その証拠に声がなんだか嬉しそうだ。
別に用事もなく、世間話となってしばらく経過。電話の向こうで南沢の悩むような声。

「あー…、やばい」
「はい?」
「おまえの声聞いてると」
「なんすか」
「たつわ」

電源ボタンを押した。
反射的に親指が動いたから仕方ない。待ち受けに戻った画面に視線をやりつつ、逡巡すること数秒。
どうにも発信ボタンを押す気にならないうちに相手からの着信表示。
ワンコールで取った。

「おま、切ることなくね」
「電話越しでまでセクハラされるためにかけたわけじゃないんですよ」

はい、と言うより早く駄目出しを食らう。
むしろそれをしたいのは自分のほうだ。流れるようにすらすらツッコミが口をつく。

「はいはい悪かったよ」

投げやりに近い、またいつものか、なんて気持ちの込められまくった謝罪にイラついた。

「俺だって、なあ」
「?」

疑問の音に更に腹が立つ。携帯を持つ手に力が入る。

「俺だって我慢してんだから、そういうので晴らそうとすんの、ずりぃ」

息を飲む音が聞こえた。

「…は」
「はっきり言えば」

声になってない、返事でさえないそれに低く重ねる。
詰まるみたいな間、往生際の悪い溜めと共にようやく言った。

「……あい、たい」
「俺も」

即答すれば、なんだよ、と悔しげな声が聞こえてくる。

「そんな可愛いこと言うな」
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