▼平和


「もしもし」 「倉間?」 「俺以外が出たらびっくりですね」 ふ、と電話越しに笑う声。柔らかいその響きは機械を通しても伝わって、なんだかくすぐったい気分になる。 取り留めのない、会話。ベッドに乗り上げ枕にもたれかかりながら相槌を打っていたところ、相手が言葉を切った。 まったく危機感のない口調で話の延長のように言う。 「あーやばい。おまえの声聞いてると」 「なんすか」 「たつわ」 「うっわ」 思い切り素の声が出た。 相手の声に笑いが混じる。釣られて笑いながら手を振る、もちろん相手には見えない。 「ひくな」 「いやひくわ。ひくでしょ」 嗜めながらふと可能性が頭を過ぎる。 「電話口でやんないでくださいよ!?」 「ふは、やんねえよもったいねえ」 それはないと思いたいがついついツッコミが大きくなった。 ウケた延長の声はついに軽く吹き出して、ないない、と付け加えながら答えてくれる。 もう何がおかしいのか分からないのに笑ってしまう。 「なにがだよ」 「なにがってまーいろいろ?いろいろですよ」 棘のない問いかけ、ぼかすような返事。 誤魔化しているようでその実あまり意味もない。 軽口に乗せて届いたものを受け取った。 「ははっ」 自分の笑い声、そして落ちる沈黙。 気まずいのとは違う。想いの、気持ちの、間だった。 「会いたいな」 静かに呟く、優しい音。端末をぎゅっと握り締める。 「会いたい」 「…ん」 短く答え、少し目を閉じた。 「すげぇ、会いたいです」
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