手繰り寄せて、 2


掌にある金属を凝視して一度握る。深呼吸して持ち直し、先端をゆっくりと鍵穴へ向けた。入り込んだ手応え、右に回せばかちりと鳴る。簡単に開いたことに思わず詰めていた息を吐いて、そうっとドアノブを掴む。捻って引けば抵抗なく開いて玄関が見えた。電気の落ちた暗い中で見慣れた靴が目に入り、咄嗟に勢いよくドアを閉めた。また鍵を差し込んで勢いよく施錠する、落ち着いて再度息を吐く。

「なんでだよ」
「?!!」

突如降ってくる不機嫌そうな低い声。叫ぶより早く振り返ればうろんげな視線の及川が立っており、呻き声手前の音が喉奥から漏れた。

「ハイ、挙動不審1名様ごあんな〜い」

ぐい、と引き寄せられた力に抗えず部屋の中へ連行される影山だった。


***


「で、何なのさっきのあれ」
「いつから見てたんすか」
「お前が神妙な顔で鍵を差し込むあたり」

ほぼ最初じゃねーか、と心では思うものの口からは唸るような音しかでない。

「んぬん、じゃないよ。で??」

にこり、笑顔で催促する及川の威圧が重い。それもそのはず、渡された鍵を使うのは今日が初めて。及川がタイミング良く帰らなければ閉め直して立ち去っていた自信があるし、それを踏まえての駄目出しを受けたのだ。

「マジで開くのかと思って」
「開くに決まってるでしょ、なんでわざわざお前にニセモノ渡さなきゃなんないの」

呆れた表情で頬杖をつく相手に目線を合わせやはり直視できず僅かに逸らす。

「俺が開けていいのかわかんなくて」
「ふ、」

やっと絞り出した本音に被せて笑う息。顔を窺えば目を細めて影山を見ていた。

「よっぽとすごいもん、こじ開けてくれたくせにね」
「え、」

なんのことか分からず瞬く影山に笑いの深まる及川。甘えるような視線を投げて寄越し、首を傾げた。

「会いに来てくれたんじゃないの?」
「……ッス」
「ふふ、ばーか」

伸びてきた腕が優しく頭を撫で、頬へ滑る。促されずとも目を瞑る反射に笑う息が届いて体温が触れた。

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