手繰り寄せて、 3


終わった後の及川は基本的に上機嫌だ。むしろ鬱陶しいレベルでもある。だがその及川たらしめる部分がなくなったら物足りなく思うのかもしれない。気だるい身体でぼんやりとしてした影山へ、突然の質問が降ってきた。

「俺のどこが好き?」
「バ、」
「バレー以外でだクソガキ」

反射的に答えるのを遮る低音。浮かれた問い掛けからの急転直下が怖くないと言えば嘘にはなるが、及川の振り幅にもそろそろ慣れた。

「………………顔、すかね」
「興味無さそうに言うな!なんなのお前!」

どう答えれば怒りを最小限に抑えられるか考え抜いた答えはあんまりだった気もするが、分かりやすく言わなければそれはそれで揉めるのだ。

「このイケメンに顔を即答するならまだしも、考えてみたけど正直そんなに……ってのやめろ」

案の定、その沈黙したところに噛みついてきた及川は立て続けに不満を述べる。

「ハイ及川さんめんどくさいって顔しない!」

リアクションまで咎められたところでようやく口を開く許可が下りる。これはもう、暗黙の流れだ。及川に対しての空気だけ読めるようになったというか読まざるを得なくなったというか。とにかく、用意していた答えを口にする。

「俺が好きなの及川さんなんで、どことかじゃないっつーか」
「は、」

不機嫌な顔からの硬直。

「及川さんが好きです」
「聞いたし!」

繰り返せば被せるような反応、そして必死な形相での早口が始まった。

「ていうか知ってる! お前が俺のこと好きなんて十分知ってんだよバーカバーカ!」
「じゃあなんで聞いたんすか」
「気分だよ!!」

最終的に大声になった及川の顔は赤く、睨まれているし怒ってもいるのかもしれないが、ちっとも怖くない。

「俺も気分です」

感情の赴くまま、大してなかった隙間を埋めてすり寄れば、ぴしりと再度固まる相手。

「お前もうやだ……」

困り果てた声と共に抱き締められた。

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