gracias! 3


まとまらない思考は意欲を削ぐのに十分だ、そんな言い訳を誰にともなく投げかけてトマトを一口齧る。見渡す広大なトマト畑、自分の生活がどう足掻いてもスペインを思い出すものでしかないというのが今は辛い。しばらく会議もばっくれてしまおうか、そんなことを考えた時、ばすんと麦わら帽子を被せられた。

「こら、また帽子も被らんと作業して」

何で居るんだ!心で叫び、凝視する俺を気にもせず、スペインは朗らかに笑いかける。

「近くまで来たから様子見に来てん」

嘘だ。だったらなんで帽子なんて用意しているんだ、汚れてもいいような服でここに立っているんだ、当たり前のように自分を甘やかすこのスパイラル。スペインに甘やかされるたびに、お前はまだ子供だと、何も出来ないあの時のままだと言われているようで、耐えられない。

「どうしたん?ロマ」

具合悪いん?伸ばされた手が届く間際、無意識の拒絶が働いた。

「いちいち鬱陶しいんだよ!」

乾いた音が響いて、麦わら帽子が地面に落ちた。弾いた腕が妙に熱い、じんじん響く痛みは直接的なものなのか。

「あ……」

我に返ったのは目の前の顔が強張ったから。無表情ともいえるその顔が、ゆっくりといつもの笑顔を取り戻して、限りなく優しい瞳で口を開いた。

「そうやね。ロマーノ、もうちっさい頃やないもんなあ」

穏やかな声が胸に突き刺さる。ちがう、違う、そうじゃない。心で思っても口は動かず身体も動かず、スペインが帽子を拾って立ち去るのをただ黙って見ているだけだった。
あんな顔をさせたかったんじゃない、傷付けたかった訳じゃないんだ。
ただ、自分の未熟さが情けなかっただけ、同じ位置に立てないのが悔しかっただけ。
そしてそれをぶつけてしまう事こそ、子供の証拠なのだ。

――ロマーノ、もう立派な国やね。

誇らしげに送り出してくれた、あの言葉を裏切った。
変わっていない、何も変わっていない。駄々をこねて泣き叫ぶ子供とどう違うっていうんだ。


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