Ping×Pong×Dash! 5


「で、アンタもし俺が無視してたらどーするつもりだったの」

なし崩しにほだされてしまった気がする帰り道、解消しきれない不満を少しでもぶつけてやろうと、リョーマが隣を一瞥した。

「どうもしない」
「はあ?!言いっ放しで満足してあわよくば卒業するつもりだったわけ?」
「あわよくば、の活用が間違っているぞ」
「どーでもいいんだよ、そんなことは」

手塚が深々と溜息をつく。リョーマにしてみれば溜息をつきたいのは自分の方だ、結局自分が一人で空回っていただけなのかと、淡白すぎる相手に恨みもこもる。

「アンタ…」
「どうでもいい」
「え?」

責める言葉を紡ぐ前に、予想しない角度で遮られた。
どうでもいいとは、何のことか。
毒気の抜かれたリョーマを見つめ、しっかりした口調で喋り出す。

「現にお前は無視しなかった、だからこそ今こうしている。そして俺も観念した、何の問題がある」
「いや、問題っていうか……」

開き直りにしか聞こえないその語りは、口を挟む隙を与えず更に続く。

「たとえお前が何もせず、このまま時間が過ぎたとしても、俺がお前を忘れることはない」
  
言い切られて、足が止まる。
視線を合わせたまま立ち止まり、手塚は尚も続ける。

「お前は同じ世界に立つと信じている。これから先、ずっとだ」

それは未来へ続く確かな宣言、確かな願い。自分と同じ舞台の上で高みを目指すとこの人は言っている。

「タイムラグはあるとしても、お前を捕まえる日は必ず来ただろう」

見つめる瞳は強く、真摯な光を放つ。
言葉と光に、射抜かれた。

「これが答えだ。何か質問は?」
 
さらりと表情を戻し、歩き出した相手に顔を向けることもできない。足元に視線を落とし、ぽつり、何気なく。

「お前お前、言いすぎ」
「そうか」
 
自分は相当な思い違いをしていたようだ、何とも思ってない、気にも留めない、そんな次元はとうに超越している相手だったのだから。

「元々諦めてないんじゃん」
「今じゃなくてもいいと思っただけだ」
「アンタどんだけ…」
「越前」

窘める声色に目線を上げる。するといつもの仏頂面で、生真面目に言ってのけてくれた。

「お前もさっきからアンタとばかり言っているが」

仕返しか。
果てしなく馬鹿馬鹿しくなってきて、リョーマは今日何度目かの投げやりな気持ちで聞いてみた。

「……部長」
「なんだ」
「どんだけ俺のこと好きなの」

質問的に見るのも居た堪れなかったので、言葉が途切れてもあまり気にせず、そろそろもう少し困っとけ、だの適当な考えで済ませた。だらだら歩くうちに声が届く。

「少なくとも越前が考えてる以上だろうな」
 
つい、思い切り振り向いてしまう、そして後悔。
無表情は変わらないまま、否、射竦めるような視線と共に挑戦的な声音で囁いた。
 
「覚悟しておけ」

もう、何を言われても驚かない自信がある。

4へ


戻る