伝えるならば、and more


▼承太郎が引いた

「君、風邪引くのか……」

どこか呆然と呟く花京院に、今まで自分をなんだと思っていたのか急に問い質したい気持ちになった。
念の為で枕元へ置いていた携帯を手に取ったのはなんとなくで、画面を確かめれば着信一件。
見慣れた名前を確かめると無意識の操作が短文を綴った。内容は何か用があったのか、そして現状を伝える一言。
メール送信から一時間も経たぬうち、買い物袋片手に駆けつけてくれた花京院は承太郎に先程の台詞を進呈した。
迅速な行動による気遣いは感じるが、その感想は心に留めておいて欲しい。

「鬼の霍乱…」
「聞こえてんぞ」

なおも真顔で小さくのたまう来訪者への叱責は平常に比べて覇気がなかった。
気だるげな声に瞬きを返した花京院がテキパキと袋の中身を広げていく。
どこから見つけてきたのか体温計を承太郎の脇に挟み込み、何か食べたか?食欲はあるか?と問いながら買い置きの薬を確かめる。
額には冷却ジェルシートが貼られ、手の届く位置に飲料もセットされて至れり尽くせり。
一人用の土鍋でお粥が出てきたときには、最初の文句を言うのも馬鹿馬鹿しくなる。
両手がふさがっているからと身を起こすのをハイエロファントグリーンで手伝おうとするのはさすがに辞退した。
支えられなくても起き上がれるが、それよりも一度に全てやらずともいいだけの話である。鍋を置いてから手を貸すだけでいい。
効率を取ったのかものぐさなのか判別し難い行動だった。
レンゲでお粥をひとくちふたくち、卵の有無まで丁寧に聞いてきたそれは疲れた身体にとても染みる。
咀嚼する間、注がれる視線はやけに浮かれていた。

「なにニヤニヤしてんだ」

見返せば、ベッド脇に椅子を寄せて腰掛けた花京院がやけに嬉しそうな表情を浮かべる。

「思ったより元気そうで良かった」

とてもそれだけには思えない、の意を込めると悪びれなく肩を竦めた。

「いやなに、少しの優越感をね」

あっさり白状した本音は言葉が足りない。熱で働かない思考を回す前に、花京院は子供のように笑った。

「こんな姿、簡単に見せたりしないだろう?君は」
「合鍵持っといて何言ってやがる」

自然に動いた唇からの指摘にいよいよもって破顔しする。

「まったくだ、ふふふ」

何がおかしいのか堪え笑いで肩を震わせる花京院は口元を押さえながら俯く。
やがて抑えずに幾らか声を漏らしたのち、すっきりした様子で本日最高の笑顔で告げた。

「キスが出来なくて残念だな」

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