案ずるなかれ、エトセトラ


▼承太郎の場合

小規模な爆発が起こった。
まだスタンドの力が制御しきれない子供の暴走はすぐ抑えられたが、可燃物への引火は警報装置を作動させ、スプリンクラーで部屋中がひどい有様となる。ちょうど立ち会っていた花京院も見事濡れ鼠となり、着替えを終えたのち軽い火傷を負った職員を見舞った。
ベッド脇で軽く談笑していたところ、廊下がなにやら騒がしい。
勢いよく開け放たれた扉に全員の視線が向く。白コートを纏う空条承太郎が殺気と見紛うオーラでそこに立つ。
帽子の下から覗く視線が花京院を捉えて幾らか和らぎ、部屋へ踏み込んでつかつかと歩み寄る。
思わず固まった本人を上から下まで一瞥し、ぽつりと零す。

「無事ならいい」

すぐさま踵を返して立ち去ろうとする背へ我に返り、呼び掛けた。

「承太郎」

扉を潜る直前で止まる足。首だけが向くのに微笑んだ。

「ありがとう」

小さく相槌を打って足早に立ち去るのを見送ってから、周りの職員はやっと動き出す。
彼が移動時間ギリギリの中で引き返したという事実は、数刻後に知ることになる。

***

本日のお勤めも終わり、支部から出て数歩。
見慣れた背丈と白い帽子に顔が緩んだ。

「待たせてしまったかな」
「いや」

直帰と聞いていたのにわざわざ戻ってまで迎えに来たのだから、やはり心配だったのだろう。
嬉しいようなむず痒い気持ちで並んで歩き出した。

そう遠くない花京院の住居まで辿り着き、エントランスで相手を見上げる。

「寄って行くだろう?」

軽く問えば、ぱちりと瞬いた相手に思わず笑う。

「ひどいな。ここで、また明日、で済ませるような恋人だと思われているのか」

僅か帽子をずらすのは照れたのか、はたまた肯定か。面白がって手を引いて玄関へ入った。
ドアの閉まる音と同時、引き寄せる力と重なる唇。ゆっくり触れ合わせるだけのキスが離れ、見つめ合う視線は渇望が混じる。啄ばむような動きが頬へ鼻先へ次々落ち、くすぐったさに身を捩ると腰に腕が回った。軽い口付けは段々深くなり、やがて入り込んだ舌が絡む段になって花京院が我に返る。胸を少しだけ力を込めて押せば解放され、荒く息をつきながら真剣に言った。

「玄関は難易度が高いからやめよう」

ノリで事に及んでは後悔する未来しか見えない。頭や背中を打つのも嫌だしシューズボックスを支えにするのも遠慮したい。主に後半の本音を伝えたところ、相手が大きく息を吐く。不機嫌ではなく、熱を逃がす為だ。

「ぼくも十分焦れているんだがね」

だから、と寝室へ導く意にまたもや驚いた様子の視線が飛ぶ。寡黙なようで雄弁で結構なことだ。
それにしてもリアクションがいちいち大袈裟すぎる。そりゃあ今日は少し、ほんの少し甘い自覚はあるけれども。

「失礼だな。ぼくが君を拒んだことがあるか?」
「ねーな」
「だろう?」

軽口に即答、更に即答で大団円。
もう一度手を繋ぎなおして、そこへ軽くキスを落とした。

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