夢だっていいじゃない 4 「ようするにあの人は、上手に春奈ちゃんを遠ざけようとしたけれど、あの不用意な一言で失敗したのね」 春奈のいないカフェテリア、思い出したような秋の感想に夏未がこくりと首を動かす。 『たまには妹さん抜きで、二人だけで』女性が言った言葉を反芻した。 「あれは絶対に言ってはいけない言葉だったのよ」 夏未は手のひらのカップを弄ぶ。 「なぜなら彼は見ていたんだから。すました顔をして、それこそ観察していたの。相手の一挙手一投足、言葉の裏側まで、重箱の隅をつつくように」 上手いこと隙間を縫って取り入ろう、そんな女もこれまでに何人もいたことだろう。 「そして妹優先という、彼の基準に達しない女性たちが次々とふるいにかけられて、」 「結局、誰も残らなかった」 「厳しい審査だこと」 ぬるくなりかけたミルクティーを飲み干して、少女たちは笑い合う。 あれからしばらく、同伴デートは行われていない。 春奈が口うるさく言うのをやめたせいか、前にも増して仕事一辺倒の兄上様だ。 しかし、それもいいかと思い始める。 ――まあね、あとどれくらいの時間、一緒に居られるかわからないけど。 「兄さん」 「なんだ」 書類から顔を上げ、すぐ反応してくれる兄が可愛いと思う。 「明日、学校来る?」 「行かないんでどうするんだ、お前の卒業式なのに」 「ふふ、そうよね」 少しばかり呆れた言い草に、笑いがついて出る。 怪訝な様子の鬼道へ、後ろ手を組んで歩み寄った。 「じゃあお礼に、兄さんが孤独な老人になったら私が面倒見てあげる」 見上げる位置で飛び切りの笑顔。眼鏡の奥の瞳が驚きに染まったのち、優しく細められた。 まるで、夢みたいな話だけれど。 ――それならそれで、素敵じゃない。 |