「アイドルパロ」の設定を引き継いだネタになります。
*シリアスが台無しです。
おまけ


「はいカーット!」
「お疲れ様でしたー!」

終了の合図と共に騒がしくなる空気。次のシーンへ向かうため、太陽と天馬はメイク直しに入った。起き上がる水鳥に浜野が駆け寄る。

「瀬戸、超かっけえー!」
「惚れるなよ」
「いやー、惚れる惚れる!めっちゃハマり役じゃね?!完成楽しみすぎるって!」

飛び上がらんばかりの勢いではしゃぐのをまんざらでもない様子で微笑む。少し言葉を交わし、水鳥も次のスタンバイに向かった。キャストの準備に合わせてセットも組みかえられていく。全く違う風景になったスタジオで、再度撮影の開始が告げられる。

「お疲れ様でーす」
「あ、倉間!そっちのチームも終了?」

肩にタオルをかけて歩いてきた倉間に手を振るのはちょうど別シーンの終わった浜野。腕を上げて答え、汗をふきながら一息つくとしみじみ頷いた。

「おお、風やばかった。巨大扇風機マジぱねえ」
「まじでー?!飛ばされた?」
「ふは、そこまでじゃねえよ」

目を輝かせて問うのにくすくすと笑いを零す。二人して台本を捲りながらしばし雑談する。

「これそろそろクライマックスじゃん?俺台本貰ったら泣きそー」
「集合シーンとか人数どうなるんだろうな…」

話しているうちに浜野へ声が掛かり、ひらひら手を振って見送った。入れ替わりで剣を持ったままの南沢が現れる。

「俺が最後…じゃないな」
「南沢さん」

お疲れ様です、と挨拶を交わし、ページを覗き込んでくる相手へ問いを投げる。

「次の撮影どのシーンでしたっけ」
「押してる剣城のとこが終わったら回想シーンだな、あの女王の死の真相」
「ああ、社長と豪炎寺さんの。……これ配役すごいですよね」
「女王に至ってはリアル夫婦だしな。ラスボスなんか時代劇大御所じゃねえか」

若手から中堅、テレビでおなじみの大先輩までそうそうたる顔ぶれの撮影だった。原作を分断して映画化という案が出た時、ファンからも大量の抗議が殺到したらしい。オーディションは難航を極め、蓋を開けてみれば名前の売れている俳優はほぼ網羅されていた。出演者だけでなくスタッフも二度と集まらないレベルの大所帯だ。各プロダクションも連携し、コケたら洒落にならぬ第一作は見事、興行収入で黒字を納める。第二部、第三部と進んでいき、ストーリーも佳境へ向かう中、現場の一体感は心地いい。

「衣装の関係もあるから仕方ないっすけど撮影で時系列ズレると変な感じ」
「ああ、天馬たち血のり使うから順番逆なんだよな」

別れの後に対峙の場面を演じることとなった主役は驚くほど切り替えが上手かった。特に妹姫と引き裂かれる叫びは撮影終了の声が掛かるまでその場の全員を竦ませていた。今日の出番の終わった倉間は完全に考察モードに入りかけている。

「はい、じゃあ囮チーム撮影入りまーす!」
「あ、始まる」

南沢の声に意識を戻した途端、開始の声が響いた。

「よーい、アクション!」



「来たようだな」

ウルビダの声に剣城は前方を見据えた。駆け付けてきたのは、女王騎士、レイザ。幻覚は本当に効いているようで、疑いもせずに戦闘態勢を取る。

「陛下の本陣に踏み入るとは、思い上がりも甚だしい。控えよ」
「控えるのは貴様だ!女王騎士の身でありながら王家に背き簒奪に与するなど万死に値する!」

淡々と告げる相手へ腕を振りかざして口上を述べる。レイザの眉が跳ねた。三節昆を掴んで踏み出す、真正面から睨み付けた。

「そこをどけ裏切り者!我が妹、返してもらうぞ!」

構えると同時、相手の剣が宙を裂く。

「はいカーット!一発OKです!」

わあっと歓声が上がる。殺陣シーンはスタントチームを交えての明日の撮影となるが、見得は改心の出来栄えだった。絶賛されるのに未だ慣れない剣城は逃げるように隅のほうへ歩いていこうとする。ちょうど近くにいた霧野がぽつりと呟いた。

「さすが正義の味方…堂に入ってるな」
「いますぐ変身とかできそうですね」
「やめてください」

次いで感想を述べる速水に被せて本人が突っ込んだ。

「あ、照れた」
「照れてません!」

笑う霧野へ抗議をしようとした瞬間、走ってくるある人物に目を見開く。

「つるぎすごい!かっこいい!」
「血のりついた衣装で動き回るな!」

後ろから慌てたスタッフが追いかけてきている。ぴょんぴょんと跳ね回りかねない天馬を抑え、頭痛を覚えて額へ手を当てる。しばらく剣城を褒め称えたのち、お前はどうだと話を振られ、謎のポーズを決めた。

「凄かったよ!俺すごい血まみれ!」
「何故そんな誇らしげに……」

思わず呆然とした剣城の後ろで、霧野の大笑いが響いた。


「瀬戸水鳥さん、今日でクランクアップです!お疲れ様でしたー!」
『お疲れ様でしたー!!』

花束を抱えた水鳥が晴れやかに笑う。少し固めの挨拶を済ませ、拍手が起こった後に浜野が追加の提案をする。

「んじゃ、伯母上様で一言!」
「無茶振りか!…こほん。よーしお前ら!全てを奪還してこいよ!」
『はい!伯母上!』

全員の声が唱和した。
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