転換


「行くのかい」

踏み出す足を止めたのは、軍師の呼びかけだった。
肩越しにだけ振り返り、豪炎寺が短く言う。

「後のことは頼む」
「嫌だよ」

切り込むような即答。扇子を口元へ当てたアフロディは静かに目を細める。

「君の約束は、君が果たすべきだろう?」

胸に秘めた、友との、そしてその妻との。
一度目を瞑り、口を開く。

「そうだな」

答えを聞いた軍師がようやく微笑を見せる。

「わかってるならいいよ。いってらっしゃい」

その日から、豪炎寺は姿を消した。



***



謁見の間。女王の傍に控えるは現騎士長アルファ。
頭を垂れるベータ、千宮路、三国。残る女王騎士は随分と少なくなった。
豪炎寺と南沢は真っ先に、倉間はドラートで。しかしアルファに嘆いた様子は微塵もない。
三国は己の不甲斐なさを思いながら、女王を窺う。気丈に振る舞い、涙も見せず、兄から倉間から引き離されて祭り上げられてしまった幼い少女。さぞ心細く、辛いだろう。無力さに奥歯を噛んだ。
戦況報告を聞いたのち、座上の黄名子が言葉を投げる。

「まーったく、情けないやんね。栄えある女王騎士が揃いも揃って役に立たないなんて!ドラートまで落とされるなんて恥さらし」
「陛下!」

レイザが声を上げた。アルファはそれを制し、静かに語る。

「イエス。陛下のお怒りも至極当然、我らに落ち度があった」
「まさか陛下の兄上がああんな悪辣な策に出るとは思いませんでしたあ」

被せて発言するベータの甘えた声に黄名子は厳しく言い放つ。

「悪辣なんてよう言うやんね!兄上は民の心を掴んでない弱点を突いただけ。子供のうちでもわかることが何でわからないの!」

少女の発言に沈黙が降りる。立ち上がり、腕を振った彼女の表情は守られる姫ではない。

「もう、うちが出る!この争いはうちが平定させる!女王自らが指揮をとるやんね!」

女王自らの親征宣言。三国は仕える気持ちを新たに、深く頭を下げた。
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