降り積もるだけ、抱き締めて 2 「するんですか、しないんですか」 机を叩く勢いで乗り出す倉間。どうして詰問のようになったのか、思いはしても口には到底出来ない雰囲気。もう一度きつく睨まれて、観念して頷いた。 「します」 この脅迫めいたやり取りが、一緒に暮らす決め手とは新しい。他人事みたいに考えてしまった南沢の思考がばれたのか、やんわり頬をつまむ指の感触。重ねるよう自分の手で包み込んで、笑いかける。机越しに伸び上がる身体が傾いで近づき、互いにゆっくり目を閉じた。 怒った表情のまま頬を染めるなんて、可愛い以外の何でもない。 決めてからの倉間の行動は早かった。 契約の更新が近いと知るや否や、めぼしい物件を見繕い提示してくる。そんなに急がなくても、と思わず口にしかけ、自分が言うかとさすがに留めた。 正直少し、怖いのもある。 手に入れたときに考えてしまうのは失うことで、倉間が離れた場合に生きていける自信は塵ほどもない。馬鹿馬鹿しいと鼻で笑われるかもしれないが、そのくらい自分の心へ根付いている。芽吹いた想いに水をやり続けてもう五年以上、大樹なんか目じゃないレベルで成長してしまった。ただただ、いとおしい。簡単な言葉で表現するのも煩わしいけれど、端的に示せばそれしかない。 隣を獲得して、一番だという自覚もあって、なのに貪欲な思考は独占を求める。それはきっと倉間も気付いているだろう。宥めるようにあやすように触れるてのひら。 手首を掴むとゆっくり瞬き、誘う仕草で目を閉じる。甘やかされているのを感じながら、何度も唇を重ねた。 進む物事は加速して、あっという間に引越し当日。運び込まれた荷物は申し訳程度しか片さず、とりあえず夕食を買いに出る。軽く酒とつまみまで買って、じゃれ合いながら帰路につく。アパートの前で鍵を取り出し、ドアノブを回した途端、小さな呟き。 「あ、」 振り向けば重ねて握られた扉を開いて一足先に。踏み込んだ玄関でくるりと反転、こちらを見上げた。 「おかえりなさい、南沢さん」 言い切ると、悪戯めいて笑う顔。 「ただいま、倉間」 閉まる音を聞きながら、相手を掻き抱いた。 |