sick! sick! sick! 4


次の朝目覚めると熱も下がり、後は喉の痛みとだるさだけになった。
さすがに油断をするつもりもないので一日休み、明日の様子を見て大学に行くことにする。
1限からの倉間をベッドから見送って、用意された食事を取りながらひとりごちた。
これを食べるのも今日で終わりで、帰ってくるのも本日まで。空虚が、忍び寄る。

寝込んでいるのか不貞寝なのか境目の分からない睡眠は、遅く帰ってきた相手で途切れざるを得なかった。
本当は、起きていた。が、引き伸ばしたくて寝た振りをしていた。
それを分かっているのかいないのか、律儀な倉間は声をかけることを選んだようだ。

「起きるの待とうと思ったんですけど」

時計の針は夜を差し、日付が変わるまで数時間。
自分は大事を取って休むべきで、こうやって転がっているのも振りだけでなく本調子でないからだ。
それにかこつけて、困らせている自覚はあるくせにやめられない。相手を見ないまま駄々をこねる。

「まだ、しんどい」
「着替えとか、二日分しかもって来てませんし」
「洗えばいい」
「や、根本的にですね」
「いればいい」

息を飲む気配。
天井を向いていた視線を巡らせ、倉間を見る。
表情は、硬い。

「一人には広いし」
「…二人には狭いですよ」
「じゃあ引っ越す」
「じゃあって、」
「探す」
「南沢さん、」

嗜める声色に手首を掴む。

「大学まででいいから」
「までとか、そういう言い方すんな…っ」

相手の顔が歪んで、睨みつける視線が怒りに変わる。 振り払われたと思った手が、指を絡めるように繋がれた。 強く引くと、そのまま胸へ倒れ込んでくる。 自由な腕を伸ばし、指で顎をくすぐった。 じゃれるようにこちらへ寄る、顔。

「舌入れたら怒る?」
「少し怒りますね」
「ならやめる」

瞳を閉じて唇を食んだ。 微かに響く音に煽られて、揉むように押し付ける。 ん、と漏れる息に甘さが混じり、何度も何度も吸うのを繰り返す。 充足感が頭を満たし、酩酊感がまどろみをもたらしてくる。 体温が溶け合う頃に一度離し、蕩けそうな瞳を見つめた。

「な、すき、なあ、くらま、すきだよ」
「眠いでしょアンタ」
「ねむくない、すき、すげぇ、すき」
「おれは、」

言いかける唇を指で押さえた。

「もっと、とか、なし」
「……俺だって、」

ちゅ。軽い音が響く。

「ですよ」

ふ、と笑いが漏れる。

「頑固」



「だいたいな、お前も悪いわけ」
「はあ」

完全復活した次の日の朝、抱き合っての寝落ちを清算しようと癖のついた髪を掻き回す。
やる気のない、むしろ眠さの残る倉間の返事は限りなく微妙だ。
しかし今日こそは言わせて貰う。

「中学からの付き合いで、5回とか」
「数えてんすか?きもっ!」
「一年一回ペースじゃねーか!誕生日プレゼントか!」

瞬時に正しく理解するのなら言ってくれてもいいものだと思う。
告白をした時、最初にすれ違った時、確かめ合った日、寂しさを告げた日、耐えられなかった時。
絶妙のタイミング以外で言おうとしない理由を言ってみろ、そして何故そこまでして言わない。
それをここまで堪えた自分は相当重症だ。

「寿命80年としてあと60回とかだろ、ねーわ」

毎日言って二ヶ月で寄越せ、ただしそこで打ち止めとかなしで。
付け加えて呟くと、何やら信じられないものを見るような目で相手が言う。

「寿命まで、いる気なんですか、俺と」
「問題あんの」

不機嫌を引きずって問いかけると、挙動不審に視線を逸らす。

「ない、です」

俯きがちになった相手の耳が染まるのを認め、勢い余って押し倒した。
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