sick! sick! sick! 1


「これは……ひでぇ」

部屋に足を踏み入れた第一感想は容赦がなかった。
言い訳をする気もないというかなれないというか、その通りなので反論もない。
足元に散らばるプラスチックやら細い針金のそれをひとつ手に取って倉間が呆れた声を出す。

「なんでハンガーが部屋のあちこちに落ちてんすか」
「外に干す気力がないから中に干すだろ、乾くから着る、そこら辺に置く。エンドレス」
「いや、ハンガーなくなるでしょ」
「いるぶんだけ拾って干す…」

うわあ、と言いたげな雰囲気を感じる。

「踏みませんか」
「たまに」

それ以上の追求を諦めた相手は溜息をつきながら荷物を置いた。
ビニール袋の揺れる音、もう見る気力もなくてお節介だな、と思うだけにする。
口にしようものなら確実に罵倒されるからだ。いや、既にカウントダウンの兆し。

「で、なんで医者行ってないんですか」
「中途半端に遠いから」

絞りなおしたミニタオルを額に押し付けて相手が低い声で言う。

「横着して悪化させてんじゃねぇよ」

瞼を開けなくても表情が容易に浮かんだ。
思わず口元が緩むと、何笑ってんだと追撃が飛ぶ。
ただいまの熱は38度5分。言うまでもなく、風邪だ。

やばそうな予感はしていた。
数日に渡る喉の炎症に若干の鼻詰まり、しかし動けないほどでもなく、少しだるいくらいは疲れと思って大学に行った。 昼にそれを後悔する、頭が見事に働かない。運良く休講になったのをありがたく思いながらドラッグストアに寄った。 熱が出てるわけでもなかったので喉と鼻用の軽い薬を買って家に帰る。 市販薬で済ませるのは初めてに近く、実家にいる頃は近所のかかりつけへ通ったものだと懐かしむ。
次の朝、緩和された喉と鼻に安心して日常に戻った。風邪の薬とは基本的に抑えるものであり、快復は休養が功をなす。 誤魔化しながら中途半端な体調で過ごして治りきるはずもなかった。
余裕もなく部屋は散らかっていき、6限フルで出席した次の日の朝、つまり今日、見事に熱を出した。

朦朧としながらもどうでもいい思考は働くもので、枕元に置いた携帯を弄る指は無意識。
おざなりに用意した額のタオルは既にぬるい、朝から意識が落ちては浮上する繰り返しだ。
何度目かのまどろみを打ち破ったのはバイブレーション、握り締めていたらしいそれの振動を感じてゆるゆると持ち上げる。 見慣れた送信者、何通か届いていた。動かない頭で文章を追う。

――どうしたんですか。
――今から行きます。

最後の文字に目を見張った。

――つきました。

鍵の開く音、玄関から人の気配。
足早に訪れた相手の第一声は部屋への駄目出しとなった。
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