組み立て意識の取り扱い 7


「おまえ、制服って…」
「急いでたんで」

それ以上突っ込まれる前に自分で言った。
息せき切って駆けつけた場所はいつかの記憶のファーストフード店で、なんとも言えない気分になる。 イートインかと思えばテイクアウトで、お前のぶん、と袋を持たされ、うっかり奢られてしまったことに 気付くのは相手の家に到着した後のことだった。 抗議は聞き入れてもらえずに、渋々と私室へお邪魔する。

机に広げる注文品、黙々と食べ始める流れがデジャヴでしかない。 メニューまで同じだなんて、最早嫌がらせの域に達する。 口の端のソースを忌々しげに舐め取った時、笑いを含んだ声が落ちた。

「今度は落とすなよ」

包み紙がぐしゃりと潰れる。

「アンタ、やっぱり覚えて…!」
「なにが?」
「すっとぼけんな!あんだけ、あんだけ…っ」

表情も変えず首まで傾げてみせるのを射殺さんばかりに睨みつける。
感情が高ぶって言葉が続かないのを見て取ると、口元が緩やかに弧を描いた。

「お前が騒ぎそうだから持ち帰りにしたんだよ」

親指で口の端を拭われる。触れられた箇所が、熱い。
とりあえず食べきることに専念したのち、問い詰めタイムが始まった。

「外堀は埋めるたちなんでな、また一からとか俺もへこむ」

しれっと言い放った内容は相当に自分勝手なものであった。 睨む視線がきつくなる。受け止める相手は気にもしない。 顎でしゃくって促される。

「どこまで覚えてる、お前」
「…全部」
「優秀。じゃ、俺が最後にしたのは?」

満足げに笑みが広がる。どうにも腹立たしい。 俗に言う奇跡だとか運命だとかそういう方向で締めるべきなのかもしれないが、 残念ながら夢見がちな純粋さなど持ち合わせてはいないので行動で示すことにした。 回数だけならそこそこに、だが自分からはと聞かれると悩むそれ。 掴み上げる胸倉、引き寄せた顔へ噛み付く勢いで唇を重ねる。相手の瞳が驚きに染まる。 そっと離すと、目を丸くしたまま動かない。

「俺だって、せっかく捕まえたのに…!」

見開いた瞳が揺れ、ゆっくりと細まると、頭に掌が乗った。
慈しむみたいに撫でさする手は優しく、表情もありえないくらい柔らかい。

「花丸」

馬鹿にしてんのかと言う前に、もう一度唇が触れた。 見詰め合ったまま押し付けて、悔しいながら目を閉じる。
啄ばむ感触に甘い声が漏れ、抱き寄せる力を拒まなかった。

有耶無耶に終わりかけた騒動に待ったをかけたのは舌が口内に入り込んだあたりである。
肩を掴んでなんとか離し、不機嫌を訴える相手を本気で噛むぞと黙らせた。
分かりやすく不満げな顔をしてくれたので頬をつつき、話は終わってないと向き直る。

「なんかアンタ悪ぶってたけど、俺が逃げたらやっぱり終わってたじゃないですか。 結局どんな形であれ、アンタが気になって仕方なかったわけで、その、」

一旦区切り、目線を逸らした倉間に続きを促す視線が送られる。 覚悟を決めて、口にした。

「二回惚れさせたんなら観念しろよ」
「わかった、責任は取る」
「なんかちがくね?!」

至極真面目に即答されたのは方向性が違って聞こえた。
不可解を表した突っ込みも自己中心論理の相手には意味はなく、もう待てない、の言葉と共に口が塞がれる。
今度は噛まずに、自ら舌をすり寄せた。


結局、稲妻町に何しに来たのかと聞いてみれば、受験の関係で下見を兼ねて資料を取りに来たらしい。
タイミングが良かったと笑う相手の頬をなんとなくつねってやった。

「あれ、学校ちがくないすか」
「向こうのがそれしかやってないぶんやっぱな」
「あー」

完全なる進学コースとサッカーの内申では狙うところも変わってくる。 高校へ行っても続けるのか、そんな問いこそ笑われそうだ。 見せてもらったその名前は、名門だと噂に聞く。つまりは、そういうこと。 表情を緩ませる自分を見て、悪戯めいて相手が笑う。

「お前こそ優勝したんだし内申でくれば?」
「死ぬ気になるかはともかく、同じとこ行けたらいいですね」

カウンターの如く返してみれば、え、と間抜けな声が聞こえる。 侮るのもいい加減にして欲しい、気持ちの上ではいくらでも。 してやったりと顔を寄せた。

「言うだけはタダなんで」

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