求む道理、それこそ不条理 6


無言の荷造りは気まずさより気恥ずかしさが占めていた。手早く済ませた倉間を伴って外に出て、鍵をかける。
相手の持つ合鍵も奪い取ってポケットへしまい込み、荷物の半分を持って歩き出す。ついてくる倉間はひどく大人しい。
電車に乗って、最寄から歩いて、アパートの入口に来たところで袖を掴む弱い力。隣を向くがそれ以上の反応はなく、扉を開けて中へ促す。室内へ入って閉まる音。倉間がもう一度、袖を引いた。

「…ただいま」

荷物を落として掻き抱いた自分は悪くない。
つまり、『家に帰る』という意味合いを受けとめた結果の、照れだったわけだ。
分かりづらい、本当に分かりづらい。だがその全てがいとおしいに変わりないわけで。

「それで、続きは?」
「え」

一旦止めておいていま言わせるか、的主張を感じたが、こちらにも止むに止まれぬ事情がある。

「言われたら止められる自信ないから」

ぱちり、瞬く様子に伝わらなかったと理解。
意味ありげに微笑んでしまったのは不可抗力だ。

「あそこでやるなって念押されたからな」
「は?!」

今度はさすがに正しく届いたらしく、信じられないと表情が語る。
緩やかな手つきで頬を撫でた。

「もう、逃がさない」



見事固まる倉間がどうにも解凍されないので、とりあえず玄関から移動した。
鞄を置いて、座らせて、無言のターンが約数分。そわそわ落ち着きのない相手を楽しむにも限度があった。

「…おい」
「い、いえるかああ!!」

ダンッと床を叩く行動はなかなかに必死。まあ言えば即スイッチですと聞かされてキョドる気持ちも察してはやれる。
だが、ここで終わっては元の木阿弥だ。互いにまたタイミングを失くすに決まっている。

「お前この一連の流れを解決しようって気はないわけ?」
「いや、だって、おかし、おかしいですよね?なんか俺どっちにしてもゲームオーバーみたいな」
「コンティニューばっかしてる俺へよく言ったな」
「う、」

往生際悪く言い募る口も、正論を返せばすぐ止まった。リセットボタンはもう十分、無限ループを終えてクリアしてもいい頃だ。セーブデータを消さなかったのなら、その意思はあるはず。

「、じゃないと一緒にいません」
「俺もだよ」

柔らかく即答、したことに自分でも驚いた。倉間が目を見開く。詰まったのちの発言はやはり欠けていて、それを補うよう口にしていた。まだ涙の名残がある顔がくしゃりと歪み、瞳が潤む。

「アンタが全てって訳じゃないのに、いないと駄目で、なくなるとか、考えもしな、」
「倉間」

泣きそうな目元へ手を伸ばし、人差し指で撫でてから唇へ親指で触れる。
薄く開く、隙間。

「南沢さんが、いい」

ちゅ、と吸い付く感触は刹那、抱きつくための腕は首へ回され耳元で小さく聞こえる二文字。

「、です」

語尾は息に掻き消えて、額が肩に押し当たる。
自分からキスをしたり、もっと大胆な行動をしておいてこの単語にそこまで照れるとは何事か。
かといって、いまの顔の熱さは倉間をからかえるものでもなかったので、両成敗で手を打とう。
お互いに慣れるまで、囁き続ければいいだけの話だ。

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