Heatbeet Emotion 1 「ユニッ、ト?」 「バスとかいうボケはなしね」 同期の浜野が口にした単語に思考が一瞬停止する。 ユニットといえば、いわゆるグループに相違ない。 社長が言ってた、という前置きから始まった世間話は予想外に自分に直結する事件だった。 「いやいやいや無理だろ無理!俺が誰かと組めるかよ!」 「もう決定事項らしいよー。はい倉間、社長の言うことはー?」 「ぜったーい…」 至極テンションの低い合いの手を入れて倉間は肩を落とした。 倉間典人、17歳。円堂プロダクション所属の今をときめく若手アイドルの卵、である。 元々はダンスが好きで、縁あってオーディションへ参加したのだが、巡り巡ってマルチタレントもどき。 ダンスを中心とした舞台を重きに置いているのでテレビへの露出は意外と少なかった。 その代わり固定ファンは根強く、劇中ソロナンバーは特別に限定でシングルカットに至っている。 有線で流れてから口コミが広がり、オリコンチャート初進出。 あれよあれよという間に名前が売れ、歌手デビューが決定した。 てっきりソロ活動かと思いきや、自分の知らない間にユニットを組まされることが確定のようだ。 丁度としか思えないタイミングでマネージャーが呼びに来て、社長室へ迎えとのお達し。 笑顔で見送る浜野を残し、気の進まない足取りで向かった。 「失礼します」 「おう、来たな」 ノックをして扉を開け、まずは一礼。 軽い応答に相変わらずだなとひとりごち、倉間は顔を上げる。 見慣れた社長の顔――より視線を奪われる姿がそこにあった。 「先輩を待たせるなんていい度胸だ」 口の端を上げて笑うのは、事務所の有望株。 週刊誌の若手アイドル女性人気ランキング一位をかっさらった、南沢篤志、その人だ。 「み、南沢さっ」 「後輩いじめするなよー?お前を先に呼んだんだから当然だろ」 「冗談ですよ、なあ倉間?」 驚きと動揺でまともに名前も言えない自分をよそに社長が朗らかにパスを回す。 受け流して肩をすくめた南沢は改めて呼びかけてくる。 ぱくぱくと口を動かした。 「お前たちで新曲出すから、頑張れよ!」 円堂の爽やかなエールは夢ではない駄目押しとなった。 「失礼しました」 パタンと扉を閉め、廊下を歩き出しながら、ちらりと隣を窺う。 視線に気づいた相手が笑い、思わず逸らす。南沢が楽しげに言う。 「お前、俺に人見知り発動すんの?」 「ちが、いますけど、なんか」 「なんか?」 「現実味が、なくて」 ぼそぼそ呟く倉間を覗き込み、問いかける語尾が上がった。 「俺と組むの不服?」 「まさか!」 即答で返す答えとぶつかる視線。言ってからまた逸らすその行動に相手が吹き出す。 「お前、ほんとに俺のファンな」 「悪いですか」 不機嫌に近いトーンで言い放つも、笑顔崩さず瞳が細まる。唇が弧を描いた。 「まさか」 |