無意識転じて籠の中 3


「お前帰る時間あたり、俺も出るから」
「外食ですか」
「合コン」

さらりとした発言に雑誌をめくる手が止まる。
そうか、大学生だ。噂には聞いてたが本当に合コンってするんだな、と妙な納得。

「そういうの行くんすね、嫌がりそうなのに」
「メンツに入ってくれたらタダでいいって言うから」
「うわー」

つまりは南沢さん目当ての女子を釣るのか。
それはなんともえげつない、更に誰も取る気がないからまさにWin-Win、でもないか。
自分のルックスでタダ飯を食いに行く発言、普通は殴られる。

「アンタもてますよね…むかつく」
「ひがみは醜いぞ」

ふっと髪を掻き上げる癖は相変わらずだ。
中学生の頃から見てきたけれど、この人は本当に変わらない。嫌味も含めて。

「合コン、俺も大学生なったらあんのかなー」

一年後なんてまだ未知の世界だ。伸びをしながら、なんとはなしに呟くと、笑っていた相手が止まる。

「お前はダメ」
「え」

何に対して言われたのか一瞬理解できず、腕を上げたまま視線を向けた。
やけに真剣な顔が、こっちを見ている。距離を詰めてきて、肩を掴む。

「お前はダメだ、行かせない」
「いや、自分が行っといてダメとか意味わかんねーし」
「やだ」
「なんなんだアンタ」

特に他意もなく言ったけど、そこまでマジで止められるとさすがにわけわかんねえ。
ガキみたいに二文字で被せる相手に、呆れた口調で零す。
途端、南沢さんの顔が悔しげに歪んで、凭れるように抱き締めてくる。

「……お前が俺のこと、そういう好きじゃないの知ってるし、このままでもいいとは思ってる。けど、他に向く可能性のある場所は行かせたくない」
「全然このままでいいとか思ってねぇだろそれ」

拗ねた、とは違う。諦め、とも違う。叶わないと分かっていてそれでも言う、これは我侭だ。
合コンに行ったからって別にすぐ何かあったりしない。
でもそんな問題じゃなく、この人は俺が他へ目を向けるのが耐えられない、そういうことだ。

「…ここまで独占したのに」

搾り出す声音にぞくぞくと沸き上がるのは恐怖じゃなかった。
優先、その言葉が示すもの。繰り返されるキス、強要しない、強要。
囲ってしまいたかったんだろう、でもそれを完全に出来るほど自信もないから俺の情につけこんだ。
俺は南沢さんを否定しなし、拒否しないし、上手くすれば傍に置いておける。
それが通用するのが所詮は学生という期間だけなのも分かってて、この人は。
身体中を駆け巡る震えは、昂揚。
そっと肩へ手を伸ばす。相手の動揺が伝わる。自然と笑みが浮かんだ。

「アンタが今日行くのやめたら、キスしていいですよ」

驚きの目を向けるのに満足して覗き込むと、小さく言う。

「言われなくてもする」
「許可あったほうが嬉しいんでしょ」

明らかにムッとした様子に思わず笑いが零れて、今まで難しく考えていた一連がどうでもよくなった。
答えなんか、とうの昔に。

「どうせ南沢さんとしかしないし、こういうの」

こつんと額を当てて言葉を紡ぐ。
見開いた目で数秒固まった南沢さんが、おそるおそる、頬へ触れる。

「この先も?」
「この先も」

確認を肯定し、目を閉じる。
そういえばこうやってしたことがない。
柔らかく当たる唇を感じて、相手の首へ腕を回した。

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