愛せよ


無防備な笑顔こそ何よりの証とは分かっていても、譲れない時もあるにはある。
つられて笑う自分の緩んだ頬を自覚しながら、それはそれこれはこれの気持ちを込めた。

「言わないと今日はキスなしな」

途端に掻き消え、む、と顔を顰めるのは別の意味で可愛かった。

「アンタはいらないみたいな言い草ですね」
「願掛けで断つのと同レベルだ悟れ」
「え、一日ごときで叶うと思ってんすか」
「当たり前に話を逸らすな」
「ちっ」

拗ねたような発言にマジレス、すぐさま被さる鋭利なツッコミ。
パターンが読めてくれば脱線もそろそろおしまいだ。
乗らずに止めるとあからさまな舌打ちが飛ぶ。さすがに少しだけ苛立ちが湧く。

「お前、自分が照れそうになったら即行で畳み掛けてくんのマジやめろよ」
「そこまで理解してくれてんならもういいですよね。帰っていいですか」

開き直れとも言っていない。この後輩は羞恥心の変換の方向性を間違えすぎだ。

「どうせ俺が許すまで帰る気ないだろーが」
「泊り込みはちょっと」
「倉間」

果てのないじゃれ合いを呼びかけて終わりに。すぐ足を下ろし、机を揺らして床へと降りる。
片膝突いて視線合わせ、右手で太腿を押さえながら左手を肩に掛けた。
一瞬だけ跳ねる動揺は、隠すのに慣れた表情からは読み取りづらい。
見上げるように顔を寄せる。

「俺はお前がいないと無理って知っとけ」
「アンタがいるから、こうしてんですよ」

少しだけ間を持ったその返事は及第点に限りなく近い。
だから、と続く単語の意味を受け止めて、唇を開けたまま距離を埋めた。

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