求め


「な、どうしたらデレてくれんの?」
「本人に聞くとか勝負捨てすぎなんじゃないですか南沢さん」

前後に繋がりのない問いが飛びだしたせいで何を話していたか完全に忘れてしまった。
とにかく思ったことをそのまま言い返してから、どうしてこうなったか胸中で反芻する。
普段と変わらない表情で言う台詞でもないと思う。

「だってお前つれないし」
「つれても俺に得ありませんし」
「あるだろ、俺の愛とか」
「ぶっ」

素に素で返されて吹き出した。微妙に決め顔で言ったのが更に辛い。

「こら本気でふくな、微妙に傷付いた」
「いやいや、ねーよ、ねーっすよ」
「二回言うな、二回否定すんな」

嗜める言い方には幾らか本気の抗議が入り、笑いが込み上げるのをなんとか抑えながら片手を振る。
爆笑を堪える自分と不満そうな相手の素晴らしき差異。
被せてくる口調がまたおかしくて唇がむずむずする。

「そもそもなにそんな必死に」
「必死になって、悪いか」

笑いを振り切るよう会話の続行を試みたところ、声の張りと表情が、変わった。
机越しに身を乗り出し自分へ向かって前のめり。距離が縮まる。

「お前に」

真剣そのものな一言に愉快な雰囲気が吹っ飛んだ。
動かない頭は相手のことで埋め尽くされ、反論が出てこない。

「か、勝手にどうぞ…」

椅子を引いて離れるタイミングを逃したおかげであまりに近い。
遅ればせながら下がろうとすると肩を掴まれた。
不可解そうな表情が状況の説明を求めている。自分にも分からない。

「お前の流せる基準が本気でわかんねーんだけど」
「頑張ってください」
「こら」

言うが早いか横を向くものの、もう片方の手が阻んで戻される。
その体勢はそろそろ辛いんじゃないですかと問いたいけれど言ったら怒られそうだ。
逸らせない視線が絡んでとどめの一言。

「ちゃんとデレるまで今日は口説くぞ」
「拷問じゃないですか」
「なんで長引く前提なんだよ」

また不機嫌が上乗せされたので、撫でる手に僅か擦り寄った。

2へ

戻る