どうやって抱き締めたらいいの 2 ばしん!と勢いよくはたかれた腕は思ったよりもじんわり痛む。 振り払ったポーズのまま、倉間が慌てて口を動かす。 「や、ほんと違うんですよ、あの」 「知ってる」 「…ですよね」 端的な答えにうなだれる相手。そう、これは一度や二度ではなかった。 いわゆる、雰囲気に耐えられない、とでもいうのか、とにかく触れること全般を拒絶される。正確には拒んではいないのだけれども、何かしら絶叫やら本気の力が働けば結果としてそうなった。気まずそうな表情に、怒る気持ちもさすがにない。むしろ毎回「やってしまった」なんて顔をされて責められるはずがなかった。様子を見続けて十日以上、自分は努力したと南沢は思う。 「しかし有無を言わせない」 「えっ」 もう一度伸ばした腕は確実に相手を捕らえる。暴れる倉間の蹴りやらが当たるが抱き締めてしまえばこちらのもの。 事実、腕の中の倉間は狼狽し、ほぼ無力に近かった。 「ちょ、や、まじで、あの、」 「だまって」 それでも身を捩り観念しないのを断ち切るべく、顎を救い上げて唇を塞いだ。漏れる音が驚きでなくなるまで柔らかく食み、背中を掌で撫ぜながらゆっくりと離す。息を吐いた倉間がくたりと凭れ、掠れた声で途切れ途切れに。 「…………し、ぬ」 真っ赤な頬を指の背でなぞって、笑う。 「すっげーばくばくいってる」 「も、むり、ころされる」 「じゃあ腕緩めてやろうか」 早鐘のように伝わる鼓動。 潤んだ瞳で零す内容があまりにおかしかったので、申し訳程度に力を抜いた。 「逃げる?」 額へかかる髪を梳いて視線が絡む。きゅ、と引き結んだ唇に罵倒が飛ぶかと思いきや、擦り付く動きと伸ばされる腕。緩慢なそれに力が加わるのを感じ、こみ上げてくるもので胸が詰まる。 「抱き締めるの二乗とかはさすがに無理だなー」 顔を隠されてしまったので、髪へ顔を埋めて口付けを落とす。 何度も繰り返し、表しきれない想いを吐いた。 「物理的な問題が悔しい」 「意味わかんね」 くぐもったツッコミがまた可愛くて、我ながら締まりのない声で嘯くことになる。 「俺のほうがお前に殺されるって話」 それを聞きとがめた倉間がもぞもぞと顔を上げ、覗き込む角度へ合わせてキスをひとつ。 ちゅっ、と響く渇いた音と予想外の感触に面食らってるうち、不機嫌そうな様子で睨む。 「余裕っぽくて腹立つ」 「ねえよ、ばか」 一気に熱くなった顔を隠す手段が見当たらない。 |