どうやって抱き締めたらいいの  1


いかに常日頃から鬱陶しいを連呼していたかというのはこの際問題ではなかった。
倉間だって思うことはあるし実行に移そうとしたこともある。行動と気持ちはリンクするようで難しく後手後手に回り続けて以下省略。そろそろ自棄の気持ちも強くなってきて、いつもの雰囲気で傍らに居る相手へ噛み付いた。

「アンタが勝手に寄ってくるから!!」

え、と開く口から言葉は発せられない。言われた内容を理解しきれず止まったのがきっと正しい。
腕を伸ばしてギリギリ届かないだろう距離へ退避しつつ睨み付ける。

「寄るな触るな自重しろ!」

数秒の、静寂。
少し驚いたような表情からすまし顔に戻っての、

「わー嫌われた嫌われた」
「思ってねえくせにうぜえええええっ」

棒読みだった。
語尾へ被せる形で両腕を振る。つまらなそうに目を細めた南沢が視線を動かせば前髪が揺れた。

「本当にヘコんだらお前がガチでヘコむだろ」
「ぐ、」

途端、唇が孤を描く。

「否定しないのか。愛されてるな」
「うっさい!」

叫びに対して耳を塞ぐジェスチャーときた。
馬鹿にしている、確実に馬鹿にされている。ぎりぎり奥歯を噛むうち、相手が軽く手を振った。

「で、いつ近寄っていいわけ」
「動くの禁止!ストップ!」
「してます」

更に吼えるとすました返答。その通り、最初に取った距離を南沢は縮めてはいない。こういうところだけフェアを貫いてくるところも非常に腹立たしい。ありあまる感情を全て勢いに転じ、思い切り床を蹴った。今度こそ目を見開いた相手の胸元へ飛び込んで、腕を回して力を込める。いきなりの突撃で若干たたらを踏みながらも、見事受け止める南沢。
顔を埋めた体温が馴染む頃、控えめな声が上がる。

「……あの、倉間さん」
「なんすか」
「オチは」
「欲しいならこのまま蹴り入れますけど」
「なしで」

混乱した戯言を斬り捨てると、そうっと頭を撫でる手のひら。
言葉を選ぶように相手がぽつり。

「なんであんな緊張感醸し出してたんだ」
「前から行かないと負けた気になる」
「戦いか」

そう、倉間からしてみればまさしく戦いであった。
しかも初手を出す前から負けているような。

「いっつも、タイミングわかんねーうちにアンタが」
「だから動くなと」

喋る為に少し顔を浮かせてぼそぼそ呟く。
納得が含まれたみたいな相槌のあと、緩みきった微笑みが覗き込む。

「嬉しい」
「うぜえ」
「抱き返したら駄目?」
「そうやって聞くとこが」

ふふっ、と零れる笑いが耳をくすぐる。
本当に腹の立つ笑顔だと、思う。

「うざくていいよ」

了解を取るまで大人しくしていた腕が背中へ回され、密着度が高まった。
恭しい仕草で額に口付けた唇が、ひたすらに甘い音を奏でる。

「お前可愛いもん」

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