願わくは、この世界で捧ぐ祝福  1


「俺、ベタなの好きなんだよな」
「世界名作劇場ですか」
「どうしてそこへ飛んだ」
「ベタとか言うから…」
「おまえのベタの基準が知りたい」
「本題ないなら帰っていいですか」
「いい訳ないだろ、このシチュエーションで」
「この、って……」

ただの雑談の延長としか思えない流れで何を言い出すのか。
そもそも会話の途切れた間で訳のわからない発言をしてくれたのはすぐ傍の先輩である。
何故か自分が悪いような雰囲気に本気で首を傾げたくなり、状況を改めて思い起こす。
少し離れた床には通学鞄と中身のあふれそうな紙袋。色とりどりの包装が覗くそれは、本日の頂き物だ。
日付と同時にメールが何通も届き、朝練で祝福の嵐を受けた。持ちきれないプレゼントは一旦部室に置き、 なんだかむず痒い、そして面映い気持ちで一日を過ごした。 0時前から電話を掛けて事実上の一番乗りをかましてくれたのが隣の相手。 放課後に呼ばれてお邪魔して、今に至る。

「おめでとうはもう貰いましたよね」
「欲ないな、お前」
「別に、南沢さんにたかるとか」

面と向かっても祝福を受け、プレゼントも卒なく用意されて逆にこれ以上何が、という気がした。
この人のこういう本気の出し方が恥ずかしいを通り越して微妙に鬱陶しい事実は胸に秘めておく。
本気の疑問を浮かべる自分に少しだけ口ごもり、視線を一度泳がせてから言い訳のように話を繋ぐ。

「そうじゃなくて、や、お前はそうなんだろうけど」

溜息のようでそうでない息をつきながら頭を掻き、言葉を探しながら視線を戻す。

「俺はまだ悔しいけどガキでしかねーし、何も確固たるもんとかさ、示してやれねーけど」

手が頭から離れ、こちらへ向き直り、確かめるみたいに頬へ触れる。
真剣な表情、目を瞑り、深呼吸。自分は瞬きさえ出来ない。
瞼が開いて見据えたと同時、降ってくる。

「お前を幸せにするって決めたから」

息が止まった。
真摯な瞳が頬を撫でながら優しく揺れて、緩めた口元から追撃が落ちる。

「生まれてきてくれてありがとう」

何とか吸い込んだはずの酸素が上手く回らず、完全に固まって見詰め合うこと数秒。

「………………ほんとにベタですね」
「想定内の反応」

たっぷりの空白を置いて呟いた返しに相手はくしゃりと笑う。
頬は熱を持ち、憮然としながらも手を重ねる。掌へ擦り寄れば嬉しげに瞳が細まっていく。
少しだけ笑って、掴んだ手に唇を当てた。

「じゃあまあ、俺の仕返しはいつか」

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