願わくは、この世界で捧ぐ祝福 2


「ベタなの好きなんですよね」
「それでホールを用意してくるお前がすごい」

ちょうど俺のが早い日でよかったです、なんて言いながら切り分ける様は実に自然。
照れも恥じらいも一切なく、イベントという気がほぼしない。
午前で終わる倉間と午後からの自分、授業が見事に入れ替わりの曜日が今年に大当たりした。
帰ってから食事まで、さりげなく冷蔵庫に近寄らせないあたりでケーキくらいは読んだが、まさか作るとは。
スポンジケーキに生クリームというオーソドックスなそれは綺麗に仕上がっており、 男二人の冷蔵庫に明日から残りをどうするんだ、とか突っ込みも浮かぶが問題なく完食するだろう自分も認識している。
甘い。何が、なんて指摘が情けないくらいに、甘い。

「何か欲しいもんありますかって聞きかけて『俺』って返ってきそうでイラッとする気がしてやめたというか」
「言わない保証はないがメッタ打ちだな」

食卓を片付けて居間へ移動し、コーヒー片手に語るさなか、主賓を罵るスキルは相変わらずだ。
割と長文を一息で言い切る上に攻撃力が高い。別に今更ダメージを受けたりもしないが。
笑ってマグカップへ口をつけると、ラッピングされた箱を机に乗せて倉間が言う。

「ちゃんと用意もしてるんですけど、それはそれで」
「なに、まだくれんの」

明らかにメインの品物を保留してこちらへ寄る。
カップを置くのを確かめてから左手を取られた。
そっと両手で包まれる。一呼吸のち見つめてくる、視線。

「元気なときも調子悪いときも機嫌悪いときも正直腹が立つときも、嬉しいときも悲しいときも楽しいときも辛いときも」

瞳はまっすぐ、動く唇は淀みない。耳へ届いているのにどうも現実感がなかった。

「敬ってなかった時なんてねえけど、俺で出来る限り力になって傍にいて、この先、俺の時間が続く限り」

握られた手に熱が篭る、息を飲む。

「真心を込めて尽くすことを誓います」

言い終えると共に指先へ口付けが落ち、温かくなった左手が絡めるよう握られた。
動かせない指が固まり、満足げにリラックスした笑顔を浮かべる相手に恨みがましげに気持ちを投げる。

「一番重要なの抜けてるだろ」
「むしろだいぶカスタマイズしてます」

誇らしげに言うなと、嬉しそうに笑うなと、ただただ物申したい。

「なんなんだよ、つかなんなのお前」
「なにって」

空いた手で顔を覆いかけると、同じく自由な倉間の片手が阻んでくる。
覗き込む表情はしてやったりと言わんばかり。

「生涯のパートナーですよ」

これこそ鬼畜だと思った。

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