gracias! 6


気恥ずかしさの残る帰り道、ちらちらスペインを窺いながら、考えていた台詞を口にする。 
 
「……しばらくお前んち泊まるからな」
「え、なんで?」
「様子見だ様子見!頭打ったんだぞ!しばらく大人しくしてろっつったろ!」

見張るからな!そう言って指を突きつけると、疑問を浮かべていた顔がみるみる上機嫌になり破顔した。

「じゃあ、ロマーノと一緒におれるんやねー」

にこー、と邪気のない笑顔で言われてしまったら、むくれる以外に何が出来るってのか。照れるのは癪だ、癪すぎる。
こいつ頭打ったんならどっか改善されれば良かったのに。

「嬉しそうにすんな、ハゲ」
「ハゲとちゃうよ!」

あからさまにショックを受けてみせるのに少し満足して、さっきから揺れている手をするりと繋いだ。俺の顔と手を何度も確かめて、スペインが瞬く。
……そんなに驚かれるとそれはそれでむかつくな。

「んだよ、文句あんのか」
「まさか」

むっすり呟けば、にへら、と幸せそうに笑うスペイン。
なんだかさっきから、これでもかとちぐはぐだ。お互いに笑って歩ければいいのに、自分の性格の難点がまたここで浮き彫りになった気がして心中で溜め息をつく。
ふいに手を引かれ、逆らう選択肢もなく胸に抱きこまれる。スペインの匂いに安心するように目を閉じると、低い囁きが落とされた。

「ロマーノ、愛してる」
「なっ、」

い、いきなり何だよっ。裏返る声で暴れかける俺をものともせず、愛しげな声が更に続ける。

「いきなりやないよ、ずっと思ってたし、言いたかった。今までもこれからも、俺はずーっとお前が大好き」

仕上げに額にキスされて、不機嫌なんてどこかへ飛んでいってしまった。なんだよ、なんなんだよちくしょう。
ここまで言われて何もしないなんて出来るわけない。でもそのまま返せるほど俺は開き直れもしない。
言わなくたってスペインはきっと気にしないけど、こっちにだって伝えたいことは山ほどあるし、やられっ放しは癇に障る。
ああ、こう考えるのが駄目なのか、でもそんな俺がいいってスペインが言うんだから、それでいい。

「スペイン」
「ん?」

耳元に口を寄せてはっきりと、相手の国の言葉で感謝を述べれば、自分にとっての太陽が、嬉しそうに微笑んだ。

案外、幸せってのは身近なもんだな。


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