gracias!


大きな手が自分を撫でてくれるのが嬉しくて仕方なかった、あの頃。

――えらいなぁ、頑張ったなぁ。

特別なことなんて何ひとつ出来やしなかったし、迷惑ばかりかけていたのに、いつも決まって最後には優しい笑顔で頭へと手を伸ばすのだ。
それが嬉しくて、幸せで、同時に情けなくもあった。
何百年も小さいまま生きて、プライドだけは人一倍膨れ上がった面倒くさい性格は素直な礼すら満足に言えず、
また行動で示すなんて器用なことはもっと不可能だった。
やることの空回りは相手の気質も手伝って数え切れない、でもそれでも嫌だと本気で思ったことはない。
太陽のような暖かさを当たり前のように注いでくれたのは、スペインが初めてなのだから。

年月重ねて数百年、ようやく独立してからもスペインとの関係は変わらず、よくもまあ懲りずに自分などに構っていられるものだと感心しないこともない。
相変わらず貧乏で、相変わらずバカ弟が大好きで、相変わらず自分にベタ甘い自称世界の親分は、今日も今日とて会議に造花を持ち込んで議題中もずっと手元を動かしていた。
くるくる器用に動く手先が花を作り出すスピードはなかなかに速い、思わず感心して見ていたら目が合ってしまい、微笑まれた瞬間、ジャガイモ野郎の怒号が飛んだ。俺は悪くねぇ。
会議後、ジャガイモの説教を右から左に受け流しつつスペインを見たらやっぱり造花を量産していて、出来上がった箱が軽く増えているのにお前は何しに来てるんだとさすがに思った。もう帰れよ。
説教の最後にゲンコツを食らい、お前何様だとさすがに噛み付いたものの顔が半端なく怖かったので弟を盾にした。
どうせジャガイモは弟に甘いからぐだぐだになるだろう、そう思ってさっさとその場を後にする。
扉を出たらロマーノ、と声をかけられた。振り向くとそこには箱を抱えたスペインの姿。
五箱も積み上げて見てるのが正直不安だったから二箱だけ奪い取る、一箱が小さいとかいう問題じゃねぇよ馬鹿。

「ロマーノも気遣いの出来るようになって……親分嬉しいわぁ」
「う、うるせーハゲ!今から箱ぶん投げるぞ!」
「やめたってー!親分泣いてまう!さっきは感動やけど次は素で!」

たわいのなりやり取りに滲む温かさは健在で、わざとらしさにムカつきもしたけど多分本音なんだろう。本音だからこそこっちは色々とあるわけで、くそっ。すぐに気持ちを言葉に出来る相手の性分が憎たらしい。バカ弟もそういうのだけは得意だ、だからこそ可愛がられるってやつなんだろうよ、知ってる。
何気ない話をして、たまにお互いの国に立ち寄って、何かあれば駆けつけてはくれる、意味ねーこともあるけどな。 こいつの中で俺はいつまでも手のかかる子分なんだと、そう再認識をする。
スペインは優しい、とても優しい。そんなことは知っている、知っているんだ。だけど同時に燻ってくる胸の底の何かは最近日増しに膨らんでいった。

変わらないのは、幸せなのかどうか。

考え始めると止まらない、独立したからとか国としての在り方とかそんなことを悩んでいるんじゃない。感情論だ、とてもくだらないプライドのおかげといってもいい。
確かに身体は大きくなった、肩を並べて歩けるようになった。だけど隣に立つとはどういうことなのだろうか。
箱を抱えて隣を歩くだけでは、意味がないのは分かる、じゃあ、どうしたら自分は満足するのか。
答えの出ないままスペインと別れて、家に帰ると胸が痛かった。次の会議はいつだったか、その時にスペインと顔を合わせて笑う自信がさっぱりなくなってしまった。 


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