Never Surrender 1


光の中に去っていく親友―――冥界へ向かう古代の王を見送ってから、二年の月日が過ぎた。
当初は受け入れながらも痛みがやはり大きくて、カードに触れるのも辛く思えた。だがそれで前に進まなくなるこそ彼に対して失礼ではないのか、そう遊戯と話し合ってデュエルを楽しむことをやめはしなかった。しかし、大会のような注目を浴びる闘いには二人とも足を運ばなくなる。テレビ中継で観戦したり話題にしたりすることはあっても、けして自身が参加することはない。
それは、未だ残っている傷跡、なのかもしれなかった。


「貴様にデュエルを申し込む」

――やっちまった。

城之内は殺気をほとばしらせ遊戯に向かい合う海馬を見て、己の言動の不用意さを後悔する。
事の起こりは十数分前、ばったり出会った相手とは実に二年ぶりの遭遇だった。

「相変わらずのお友達ごっこか」

この一言が、城之内の考えたくない場所を見事に抉ったのだ。
まだ諦めていないのか、遊戯が目立った大会に出てないことを持ち出して自分に問うてきた海馬に、おざなりに返し、当て付けるように呟いてしまう。

「お前の会いたい遊戯は…もういねぇよ」

そこからが大変だ。声も表情も翳った尋常でない様子にどういう意味だとしつこく問い質され、段々腹が立ってきた城之内はバトルシティ以後の展開をご存知でない海馬社長に事細かにぶちまけた。世迷言を白昼夢をと騒ぎ立てる分からず屋にいよいよ辛抱できず、じゃあ本人に聞けと叫んでから我に返る。

「いますぐに案内しろ」

ごく低い声で凄んでくる相手にノーと言えず、携帯のメモリを呼び出すこととなった。

本当に悪い、マジで悪ぃ、平謝りし続ける城之内を遊戯は苦笑しながら穏やかに宥める。返事をするまで睨み続けてくるだろう海馬に向き直り、少し微笑んで頷いた。

「うん、いいよ」

かくして、闘いの火蓋が切って落とされる。
城之内は祈るような気持ちで二人の掛け声を聞いていた。


「……きさま、」
 
デュエルが終了し、海馬が発した言葉は硬い。
遊戯が自分自身で組み上げ進化させたデッキと戦略は同じく進化していた海馬と接戦を繰り広げたが、最後の最後で軍配は遊戯の方に上がる。
闘いの最中、たびたび探るような目を向けていた海馬の表情は驚愕へと変わり、最後は不愉快さを隠しもせずに睨んでいた。

「分かるよね?もう、ボクしかいないんだよ」

静かな遊戯の声が落ちる。城之内は思わず視線を落とし、唇を噛んだ。

「だったらどうした」

不機嫌な声は沈んだ空気をあっさりと打ち崩す。

「ならば今から貴様に挑む者になってやる」

闘志を燃え滾らせ、風を巻き起こさんかというオーラを発しながらきょとんとする遊戯に詰め寄る。

「たった今から貴様がオレの宿敵だ。相応しい場を用意してやろう、詳細は追って連絡する」

そう言って有無を言わさず連絡先を遊戯から獲得した海馬は、用事は済んだと言わんばかりに足音を立てて歩き去る。あっけに取られた二人が回復するのに数秒、城之内が遊戯に声をかける前に、弾けた笑い声が響く。

「あ、あはははは!か、海馬くんらしいや…!くっ、ふふっ、あははは!」

笑い転げる友人にまたもや止まってしまった城之内に、遊戯が向き直り眩しく笑った。

「海馬くんってやっぱりすごいね」

城之内は遊戯を覆っていた影が、いくらか晴れたのを感じ取る。自然と自分も笑顔を浮かべていた。

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