跳ね返るどころか縦横無尽 2


「見えてきましたよ、あれがデュエルアカデミアデース!」

ここまで運んでくれたというか付き合ってくれた案内人の相変わらずのテンションに曖昧な笑みを返しつつ、城之内は景色を見遣る。 青い青い海の中に浮かぶ、一般の生活からは切り離された特別な場所。それがデュエルアカデミア、海馬コーポレーション出資のデュエリスト養成学校だった。



「あ、あれKCのヘリだ」
「またペガサス会長かな?」

日光浴と昼寝の狭間を彷徨っていた十代がぱちりと目を開けて飛び起きる。 つられて見上げた翔も視線で追いながら言葉を繋ぐ。 マジックアンドウィザーズの生みの親であるペガサス・J・クロフォードはアカデミアになかなかの縁があった。何せ気鋭のカードデザイナーを1人スカウトしただけでなくここで起こった様々な事件に関与または協力してもらったからだ。その影にはもちろんオーナーである海馬コーポレーションの社長の意向もあったりなかったりするわけで。

「つーか、なんでインダストリアルイリュージョン社のヘリで来ねーんだろうな?あの会社ヘリねぇの?」
「まだペガサス会長と決まったわけじゃないんだから…」

素朴な疑問とツッコミを交えつつ十代たちはヘリポートへと走る。乗っている人物が誰にせよ、興味があることに変わりはない。 現場に到着すると、そこには既に黒いコートの先客がいた。

「万丈目!」
「万丈目くん!」
「さんだ!」

お決まりのやり取りを交わして睨んだ後、万丈目は舌打ちをして降りてくるヘリへ視線を移す。今はじゃれている場合ではないと判断したのだろう。

「お前も来たんだ」
「外部の来客で事件じゃなかったことなんてないからな」
「つまりは野次馬根性、と」
「正義感と言え!」

ぽつり呟いた翔に万丈目が噛み付いた直後、強い風が3人に吹き付ける。着地地点に近づきすぎたのだ。腕で顔を庇う体制となって数秒後、ヘリの音が止まる。

「ハーイ!お久しぶりですね十代ボーイ!」

目を開けたとき飛び込んできたのは予想通り、インダストリアルイリュージョン社代表取締役その人であった。腕を広げ声高々に呼びかけてくるペガサスに十代も片手を上げて応える。

「どうも!久しぶり、ペガサス会長!」

お久しぶりです、万丈目と翔が挨拶を続ける中、違う声が響いた。

「すっげー…マジで島一個が学校なのなー」

予想外のその相手はヘリコプターを降りるなりきょろきょろ辺りを見回して声を上げる。
まさかのイレギュラーに一瞬止まってしまった十代たちにニコリ微笑んで、ペガサスがゲストを促した。

「今日は凄い人を連れてきましたよ」
「へ、オレ?」

突然、話を振られた本人はきょとんとした顔で、ペガサスに引っ張られるままに前に出る。明るい金髪、意志の強そうな瞳、見た目は普通の一般人の男性だ。

「誰だ、この人」
「いや待て、そこはかとなく見覚えがあるような…」

臆面もなく言い放つ十代に万丈目の静止が入る。失礼レベルでは物凄くどっちもどっちだと翔が思ったとか思わないとか。 しかし悩むまでもなく、あっさりネタばらしが行われた。

「それもそのはずデース!彼は我がデュエリストキングダムで高位の成績を収め、さらにバトルシティでベスト4に残った伝説の…」
「わー!そういう紹介の仕方やめろって、なんか凄まじく照れるから…!」

朗々と宣言し始めた声を遮るように青年がわたわた手を振り回す。少し赤い顔でこほんと咳払い、次の瞬間、にかっと人懐こい笑みを浮かべた。

「どーも、城之内克也ってんだ、よろしくな!」

一同の口がぽかんと開く。

「キ、」

十代。

「キ、」

万丈目。

「キ、」

翔。

『キングオブデュエリストの親友ーーーーー!!!』

3人仲良く唱和したのはなんとも分かりやすい称号だった。

「その認識のされ方は喜ぶべきか悩むところだなオイ…」

思わず半目になる城之内をよそに少年たちは盛り上がる。

「あれだろギャンブルデッキとか言われる強運の!」
「精神力なら武藤遊戯や海馬瀬人にも勝るという…!」
「でも、そんな人がなんで…」
「あー、それはだな…」

話すと長くなるんだが、言いかけた途端、十代の傍らから何かが飛び出した。

「クリクリー!」
「相棒?どうしたんだ急に…」
「クリー!」

現れたハネクリボーは城之内の周りをくるくると飛び、鳴いた。

「わ、ほんとにいたんだな他の精霊…」

おそるおそる指でつつこうとする相手を避け、ハネクリボーが飛び回る。当初は面食らった城之内だが、それよりも衝撃のあるものを体験した後だったので順応はとても早かった。

「悪かったって、つつくのはあれだよな、じゃあ撫でさせてくれよ」

あっさりハネクリボーと打ち解け仲良くなった様子に3度目のフリーズを起こしていた少年たちから十代が立ち直った。ちなみに精霊が見えない翔は本気で訳がわからずついていけていない。

「他の?」
「うーん、説明するより見る方が早いっつーか」
『なんだ、オレを呼んだか』

城之内の疲れた声も終わらぬうちに、出現する精霊が1体。
忘れるはずもない、忘れたくても強烈なインパクトで脳に刻み込んで離れてくれないものが、そこにいた。

「か、かかかかかかかカイバーマン?!」
「やっと話の通じる奴に会えたーー!!」

狼狽する十代の両手を握り締め叫ぶ歓喜の声が、日中のアカデミア港に響き渡った。

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