跳ね返るどころか縦横無尽


自分は何故にこんな状況に陥っているのか。
解決するか分からない問題を抱え、城之内はヘリコプターの中で肩を落とす。

始まりは些細なこと、仕事の帰り道、路地脇に落ちているものを見つけたのが悪かった。



地面に散らばる数枚のカード、見慣れた模様はM&Wで間違いない。
ここはコンビニも近い、おそらく開封した子供がいらないカードを捨てていったのだろう。 TCGをしていればダブったり使わないカードが出るのはよくあることだが、 それを簡単に捨ててしまう行為が城之内は許せなかった。 見過ごすこともできず、一枚を拾い上げる。汚れもほとんどなく、新品同様、捨てられてからさほど時間は経っていないらしい。とりあえず、落ちているカードを全部回収した。

「拾ってどうすんだっつー話だけどな……でも放置もできねーし…」

微妙な面持ちで鞄へとしまおうとしたその時である。

「貴様、なかなか殊勝な心がけだな」

突如響いた声に耳を疑う。
辺りを見回すが誰もいない、城之内は顔を引きつらせ息を吸い込む。

「気のせい、気のせい。オレはきっと疲れてる」
「無視をするな、凡骨!」
「凡骨言うな!ってうわああなんかでたああ?!」

更に聞こえた声に反発してから気付いた、自分は見えないものと話したのだ。
叫んで慌てふためく城之内の前に、うっすらと何かが浮かび上がる。

「ひっ…!」

もはや失神寸前、幽霊やお化けが苦手どころの話じゃない彼は正直言うと夜道も得意ではない。

「うろたえるな馬鹿者」

だがしかし目の前に現れたのはどこかで見たようで見たことのないものだった。
見慣れた白コート、ベルトをあしらったインナーファッション、ここまでは分かる、分かりたくないが分かる。ただ違ったのは腕につけた奇抜なデュエルディスクらしきものとこれまた奇抜な仮面、そして風になびく長さの髪の毛。

「海馬……じゃねぇよな、そうであってもなくても逃げたいけど。いやちょっと待て何か見たことある、オレは持ってないけど見せてもらって……つーかさっきのっ!」
「ええい、ごちゃごちゃと煩いわ!そんなに知りたければ教えてやろう、オレの名は!」

ばさり、風もないのにコートが翻り長髪がたなびく。

「正義の味方!カイバーマン!!」

名乗り上げと共に豪快な高笑いをかましてくれた相手を前に、城之内は呆然と立ちつくした。



「これを、なんとかしろ」

ぶち破るような勢いで扉を開け放った城之内の表情は限りなく真剣だった。

「何がどうした」

海馬コーポレーションの社長室、今日も忙しく働き続ける経営者は飛び込んできた相手を咎めるでもなく答えのみ淡々と返す。 瞬間、視線を寄越したものの特に反応のない海馬を見て、すぐさま頭を抱えて絶叫する来訪者。

「見えねぇのかよおおおおお!!電波系っつったらお前だろおおおおおおお!!ここは空気読めよーーーー!!」
「ええい!いきなり現れて変な言い掛かりをつけるな!意味不明加減を求めるのなら貴様のお友達のところにでも行かんか!」
「関連性考えたらお前なんだよこの場合!くっそ使えねぇ、精霊くらい見ろよ宇宙の波動とか言い出すくらいなら!」
「精霊、だと?」

そのまま果てのない低レベルな口喧嘩に発展するかに思えたが、ある単語に海馬が言葉を止める。

「そうだよカードの精霊?とかいうの?オレも知らねーけど現実にいるんだから困ってんだ!煩いんだよコイツ!」

そう言って見えない空間をぶんぶんと指差す。もちろん海馬に見えるわけはなく、城之内が暴れているようにしか見えない。

『ワハハハハ!そうかそんなに嬉しいか凡骨。オレの加護などそうそう受けられるものではないからな!』
「うっせーよマジで!高笑いうぜぇ!なんでそんなに気性までそっくりなんだよ本気うぜぇ!」
「…気でも狂ったか」

1人で大騒ぎしている様子に呆れ、仕事に戻ろうとする海馬。この間もカイバーマンの哄笑は無駄にエコーして鼓膜を苛む。城之内は力の限り叫んだ。

「っだー!話進まねー!!ちょっとカイバーマン黙ってろ!!」
『フン、よく喚く人間だ』

本気の剣幕に引いてみせたのか単に飽きたのか、とにかくカイバーマンは気配を消した。ぜーはー、息を切らし虚空を睨む城之内を訝しげな目で見つめるのは本物の海馬。
正直、とても疲れる。1人を相手にするだけでも精神力やらなにやらを激しく消耗するのに精霊まで似たようなのが存在するだなんて。城之内にしてみれば悪夢以外のなにものでもない。

「今、カイバーマンと言ったか」
「ああ言ったよ!それがソリッドビジョン並のリアルさでここにいんだよ!今いないけど!」

どうせ信じやしないだろうと半ばヤケで声を張り上げる。相変わらず何もないところを示し続けるのを見て息をつき、鬱陶しそうに自称現実主義者が口を開く。

「オレは目に見えるものしか信じない、だがいつまでもここで喚かれても迷惑だ。偶然、似たようなことをほざいていた輩に心当たりがある。そこへ当たれ」

これが垣間見せた優しさなのか面倒になって放り出されたのか精霊に実は興味を持っていたのか、ヘリの中で経緯を思い出して微妙な気分になる城之内であった。

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